法 話

(11)「ウソ」と「ホント」

 このところ、マス ・メディアがかまびすしい。事実を私たちに伝えるとともに、問題提起をしてくれています。その中身の筆頭は、言わずもがな、田中真紀子外務大臣の更迭。その元はといえば、アフガニスタン復興支援会議への非政府組織(NGO)排除問題。

 問題の発端は、全世界から代表が集まって東京で開催されたアフガニスタン復興支援会議へ、外務省が日本の一部NGOの参加を拒否したことでした。議論の焦点は、外務省が独自の方針で参加させなかったのか、あるいは他からの圧力でNGOを排除したのかということ。具体的には、“族議員”である鈴木宗男衆院議院運営委員長の関与があったかどうかという点。

 衆院予算委員会の質疑の様子をテレビで見ていると、鈴木氏の関与について、田中外務大臣は野上事務次官から聞いたと明言し、一方、野上事務次官は言っていないと主張して平行線。両者の答弁は全く食い違ったまま。政府部内からも、識者からも事実は一つしかないのだから、どちらかが「ウソ」を言っているとの声が聞かれました。まさにその通り。が、私たちにはどちらが「ウソ」か、何が「ホント」か全く見当がつきません。

 外務省内部の問題だと高をくくっていた小泉首相も、国会の混乱を受けて重い腰を上げ、1月30日未明事態の収拾をはかるために「決断」をしました。「決断」の中身は、田中外務大臣と野上事務次官の更迭と鈴木衆院議院運営委員長の辞任。記者会見の様子を見て「エッ?」と声をあげたのは私ひとりではありますまい。取材中の記者の中からもどよめきが聞こえ、動揺した記者たちが首相に近づいたためか、テレビカメラも揺れていました。

 意外や意外! 「三方一両損」という政治決着でしょうが、これで小泉内閣の「改革」もおしまい。私の率直な感想。もちろん、緒についたかと思われた外務相の改革もダメになりました。元の「伏魔殿」に逆戻りすることでしょう。メディアが聞いた「国民の声」もこの「決断」に圧倒的多数が「反対」と報じています。例えば、30日付の中日新聞は「街の声」の80%がこの決着に反対だと伝えています。また、TBSのNEWS23によれば、320余通のファクシミリが寄せられたが、そのうち小泉支持は6通とのこと。

 一方、自民党本部や鈴木宗男議員の事務所には抗議の電話が殺到したと報道されています。反対に田中真紀子事務所には、「悔しい」とか「がんばれ」の声が寄せられているといわれます。いずれにしても、小泉総理大臣が選んだ田中真喜子外相更迭の人事は、国民の目には“不当”と受け止められていることは間違いありません。

 国会で「言った」「言わない」なんて子どものけんかじゃあるまいし…というご意見もあるようですが、それは論点のすり替えであって、問題の本質は、なぜNGOが会議から排除されたかということでしょう。NGOの排除について鈴木宗男議員の介入があったことはその後の新聞報道やNGO代表のテレビ会見でも明らか。国民はどちらが「ウソ」か「ホント」かもうすでに見抜いているのです。なのにそこへ「フタ」をした小泉首相の「決断」は果たして「英断」であったのでしょうか。今後の支持率のグラフにきっと表われることでしょう。

 さて次の話題は…、いや、話題なんてのんびりしたものではなく、これは事件! ズバリ「雪印食品」事件。雪印食品は、国の狂牛病対策を悪用して、輸入牛肉を国産牛肉と偽装して国民の税金を使って買い取らせたのです。同食品関西ミートセンターは、オーストラリアから輸入した牛肉を国内産牛肉の箱に詰め替え、偽ラベルを貼って化けさせたのです。その作業現場となった倉庫業者からの告発で事件が明るみに出ました。その後、同食品関東ミートセンターや本社ミート営業調達部でも、輸入牛肉を国産牛肉に偽装していたことが判明しました。

 一部の牛・豚肉については、偽装して販売されていた疑いもあるという。3年ほど前から会社ぐるみで偽装・加工作業が行われていたのは間違いないようです。ラベル、シールの偽造から伝票・帳簿・申請書類・コンピュータのデータの改ざん、果ては空き箱の処分に至るまで、事細かに偽装・改ざん作業が日常的に行われていたようです。親会社である雪印乳業の食中毒事件の記憶も新しいのにこの体たらく、開いた口が塞がらないとはこのことでしょう。

 消費者は、店頭に並ぶ食品のラベル・シールを見て原産地をはじめ素材、賞味期限などを確かめて購入します。もしこのラベル・シールの情報が「ウソ」であったら、消費者は完全にだまされます。だって、消費者はその牛肉がオーストリア産なのか、国産なのか調べようがありません。食品会社を信用するしかないのです。食品専門家でも、肉を細かく切ったら並べて見ても国産肉か輸入肉か区別はつかない、とテレビで放映していました。

 雪印食品のこうした偽装工作が明るみに出ると、あるいは他の食品会社でも日常的に偽装をやっているんじゃないかと疑いたくなります。賞味期限は本当だろうか、産地は間違いないだろうか、果汁100%となっているけど誤魔化していないだろうね、とか。ラベル表示の内容が「ウソ」か「ホント」か私たちの力では解明することは不可能。さりとてJAS法にもとずく国のチェックはといえば、これまたあまり実効をあげていないのが実情のようです。となれば、消費者としてはラベル表示が「ほんまもん」と食品会社を信じて買うほかありません。雪印食品事件は、そんな消費者を裏切ったのです。

 親鸞聖人の仰せを弟子・唯円坊が書き留めた『歎異抄』の第十八章には、

  (前略)煩悩具足
(ぼんのうぐそく)の凡夫、火宅無常(かたく
      むじょう)
の世界は、よろずのこと、みなもって、
    そらごとたわごと、まことあることなきに、
    ただ念仏のみぞまことにておわします。
(後略)

 としたためられております。因みに、『広辞苑』には、「そらごと」とは【うそ】のこと、「たわごと」とは【妄語(うそをつくこと)】と記されております。念仏のこころで会社経営がなされれば、偽装も改ざんもできないでしょう。事実、社長はじめ社員一同念仏のこころで会社を運営し、「まこと」のこころを実践し成功している食品会社もあります。もともと「政治は権謀術数」といわれていますので、政治に「ウソ」は当たり前かも知れませんが、情報開示の現代には通用しません。主権在民の民主主義の日本、いくら政治の世界といえども「ホント」・「まこと」が国民から求められていることはいうまでもないことでしょう。合掌。
2002.2.2.住職・本田眞哉・記】


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