法 話

(117)「報恩講つれづれ」
  

大府市S・E氏提供

 
 

「報恩講つれづれ」
 
 

 11月・12月は「報恩講」のシーズンです。わが真宗大谷派の本山・東本願寺では、毎年1121日~28日の日程で報恩講が厳修されます。またこの時期、全国各地の末寺でも報恩講が勤められます。さらに、ご門徒のご家庭でも「お取り越」とか「お仏事」という名で伝統的に報恩講が勤められてきました。

 私たち真宗門徒が宗祖と仰ぐ親鸞聖人は、1262(弘長2)年1128日に90歳の生涯を閉じられました。親鸞聖人をはじめ、念仏の教えに生きられた先達に思いをいたし、その恩徳に感謝し報いるお勤めが報恩講です。

 お念仏の教えを聴聞し、自らの生活を振り返る一年で最も大切なお仏事です。報恩講は聞法のみならず、人々が寄り合いお斎(とき:会食)をいただくご縁でもあり、暖かな触れあいの中で、今日まで連綿と勤められてきました。

 当山・了願寺でも、報恩講は400年以上に亘って伝統的に勤められてきた年間最大の仏事であります。お勤めする時期は、旧暦から新暦への移行や、社会情勢の変化にともなって移り変わってきていますが、現在は毎年124日~5日の日程で勤修しております。そう、明4日からですので、今門徒の役員の方々と家族全員で準備の大童です。

 住職在任50年を迎えた私が来し方を振り返ってみますと、当山の報恩講の勤め方も種々変化してきております。“宗祖親鸞聖人のご恩に報いる講習会”という基本理念は微動だにしていませんが、付随的なところではずいぶん変わってきています。

 例えば仏華。今から50年ほど前は、ご門徒の中のセミ・プロ的な34人の立華の達人が本堂の仏華を立てて下さいました。3日ほど前、まず近くの里山へ出かけて華の材料にする松の小枝を採ってきます。翌日からは、本堂脇の「華部屋」にこもって、立花の幹に取り付ける「カイ」作り。その次の日には花瓶に立てた幹に「カイ」を組み立て作った小枝を取り付け、仏華の形が出来上がっていきます。そこへ生花などを添えて完成。

 今はそうした達人も亡くなられ、住職や坊守がカイを作ることもなく、幹を使うこともなく仏華を立てています。因みに仏華の数は、本尊前2、祖師前1、御代前1、蓮師前1、絵伝前1の合計6杯。

 もう一つ大きく変わったのが「お華束(けそく)」。仏前にお供えする餅なのですが、その飾り方がユニーク。直径3㎝、厚さ8㎜ほどの平らな餅を、高さ約40㎝直径20㎝ほどの円柱状に積み重ねて、さらにその上に傘形の飾りを積み増しします。名付けて「須弥盛り」。仏像を安置する厨子が乗っている須弥壇を思わせるところからこの名が付いたのでしょう。

 ところがこのお華束、形は踏襲しているものの材質が変わりました。当山でも30年ほど前からお餅が落雁に変わりました。それ以前は、ご門徒の世話人の方10名ほどが、報恩講の3日ほど前朝早くから庫裡の土間に石臼を持ち出してお餅つき。かまどの釜の上に餅米を入れた「蒸籠(せいろ)」を数段積み重ね薪をどんどんくべます。しばらくすると蒸籠の中に蒸気が充満します。餅米が充分蒸されたころを見計らって、蒸籠を釜からおろして石臼の中へ伏せて蒸し上がった餅米を石臼の中へ取り込みます。

 もうもうと蒸気が立ち上る餅米を杵で静かに押しつぶします。この最初の段階では杵を高く振り上げペッタンコと振り下ろすことはしません。最初は餅米が飛び散らないように杵を押しつけるだけといった感じ。餅米がほぼ一体化した時点で本格的な餅つきに入ります。78分でつき上がった餅を、臼から米粉を敷いた「のし板」に移します。

のし板に移された餅塊を、今度は蕎麦打ちの麺棒より太い丸棒を使ってのばします。最後はお華束の厚さが8㎜ほどになるように、伸し餅の両側に厚さ8㎜ほどの定木を置いて慎重に作業を進めます。平らになった餅を直径3㎝ほどの円形の型金で切り抜きます。カッポカッポと切り抜いて出来上がったお華束を平らな板の上に並べ作業は完了。

2日ほどしてこのお華束の単体を積み上げると前述の「須弥盛り」が出来上がるわけですが、この段階ではまだまだ完成形体ではありません。飾り上がった円柱形の部分にお化粧をします。紅色1本、藍色2本の鉢巻き状のリングを食紅を使って施します。また“傘”の部分には輪状にみかんを配置し、天辺には橙を1個載せて万全となります。

現今はその餅の部分を落雁で代替え。この落雁は手製というわけには参りませんので、お菓子屋さんに“外注”ということになります。また最近では、この落雁もやめる傾向にあるようです。お華束が模造品に変わりつつあるようです。須弥盛り全体を木製部品で組み立てたり、あるいはプラスチックの成型品を使ったり、という塩梅。時の流れでしょうか。いずれにしても、祖師の恩徳だけは忘れないようにしたいものです。   合掌

2010.12.3 住職・本田眞哉・記》

 

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