法 話

(121)ただ、ただ 感謝のみ 
   

如来大悲(にょらいだいひ)の恩徳(おんどく)

身を粉にしても報ずべし

師主知識(ししゅちしき)の恩徳も

ほねをくだきても謝すべし




大府市S・E氏提供
親鸞聖人・作『正像末和讃』より

ただ、ただ 感謝のみ

東日本では過去最大級の烈震が発生し、大津波を伴って前代未聞の大災害となっています。テレビや新聞で報道される状況は、まるで架空の世界の出来事のように感じられます。震災で亡くなられたみな様には心より哀悼の意を表すとともに、被災された関係各位には心よりお見舞い申し上げます。

 住職を交替しようとするこの時期にこうした災害が発生すするとは、何とも不思議な巡り合わせを感じずにはおれません。住職後継の長男は、2泊3日の修習のため3月11日京都の本山に出かけていました。修習初日の午後、東日本・関東大地震が発生。心配しましたが無事修習を終え、13日夕刻には住職任命の辞令を携えて帰宅しました。了願寺第十七世本田眞住職の誕生です。

 私が住職就任の手続きを始めたのは1959(昭和34)年9月。同月26日には過去最大級の伊勢湾台風が当地方を直撃。本山・東本願寺及びその出張所である名古屋教務所は災害対応で大混乱。特にご門徒の金城湯池である県内海部・津島地方では1ヶ月以上も住宅内に潮が満ち干する状態。そのために事務処理が遅れ、了願寺第16世住職を拝命したのは同年11月19日。

折しも新興宗教が教線拡張で猛威を振るっていた時期。新興宗教の信者が真宗門徒宅へ押しかけて、「折伏」とかいう論戦を仕掛け、お仏壇を壊しご本尊を焼き払って改宗させるという、過激な行動もありました。こうした中、いわゆる既成教団は信仰再生運動に取り組み始めましたが、なかでも最も注目されたのが我が大谷派の「同朋会運動」。

「家の宗教から個の自覚の宗教へ」というスローガンのもと、「特別伝道」を柱に据えた格調高い教化活動が全国で展開されました。当山を始め、知多地区全域でもこの信仰再生運動は盛り上がりを見せ、当山では1996(昭和41)年聞法の会「東浦同朋会」を結成しました。以後毎年総会と6回の例会を連綿と開催してきました。例会は、この3月で258回を数えています。

 もちろん、従来型の教化活動も怠りなく実践してきました。メインの報恩講を始め、永代経・修正会・ご門徒宅の報恩講等々。加えて、時代に即応してメディアに依る新機軸の教化・伝道にも取り組んでいます。住職就任3年後の1962(昭和37)年には寺報『受教』を創刊。A4判4ページ建てで年4回発行、本月には第198号を迎えます。インター・ネット上で公開している了願寺のホームページは私の手作りで、開設以来10年を経てアクセス数は21,000回超となっています。

 一方、ハード面整備ではまさに「土木建築住職」の50年間でした。就任早々取り組まねばならなかったのが伊勢湾台風による災害復旧。本堂の立て起こしと大屋根の葺き替え工事には、莫大な経費と時間を要しましたが、ご門徒の篤き支援をいただいて1964(昭和39)年には竣工を見、落慶法要と蓮如上人四百五十回御遠忌法要を併せて厳修することができました。

 この一大事業を出発点として、私の土木建築住職の歩みが始まったのです。折から押し寄せるモータリゼーションの波を受けて、参詣者用の駐車場の設置が求められるようになりました。まずは公道までの車用の参道開設。1968(昭和43)年完成。その3年後、第2期工事として、境内東の竹藪を切り開いて参道を延長して駐車場を新設。併せて墓地利用滞留希望者のための墓地の拡張も実現できました。1971(昭和46)年事業完了。

1980(昭和55)年代に入り、寺院での葬儀の回数が増え座敷が手狭になったため、会館兼書院と玄関棟の建設を発願。了願寺創建以来最大の建築工事となり、総額6,000万円余の事業費を要しましたが、ご門徒各位の熱意と御協力で事業は円成しました。竣工を期して1982(昭和57)年4月親鸞聖人御誕生八百年の慶讃法要も厳修することができました。

1994(平成6)年盛夏、酷暑のある日突然庫裡の大屋根が轟音とともに崩落。まさに青天の霹靂。庫裡は築250年、どこかの酒蔵を移築したものとか。徳川幕府の治世下では、寺の庫裡の新築は許されなかったようで、近隣の寺でも同様の例が見受けられます。早速庫裡の建て替え事業を立ち上げ、古民家再生で有名な安曇野在住の建築家・降幡廣信先生に設計を依頼。設計および準備作業に1年余を要し、阪神・淡路大震災が発生した1995(平成7)年に着工。総事業費1億5,000万円余で1996(平成8)年事業完了し、11月に落慶法要を厳修。

 21世紀に入って「蓮如上人五百回御遠忌法要」厳修を発願。記念事業は本堂大屋根の葺き替えと内陣荘厳の修復・出仕廊下の新設。本堂の修復は前回より数えて30数年を経て2回目。総事業費は1億5,000万円余を要しましたが、ご門徒各位のご芳志を戴いて2004(平成16)年4月、おかげさまで御遠忌法要事業を円成することができました。

50余年に亘る住職在任中のこうした伽藍・境内の整備には、ここ所載以外の事業も含めると、総事業費累計は五億円余にのぼりましたが、ご門徒および関係各位のご懇念を戴いて完遂できました。感謝の念一入です。有り難うございました。お陰さまで健康に恵まれ、ご門徒はじめ数多の方々のご支援を戴いて50余年の任務を全うすることができました。重ねて有り難うございました。ただ、ただ感謝のみ。         

                                                    合掌

2011.4.3 前住職・本田眞哉・記》

 

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