法 話

(123)「火宅無常の世界」 
   

  煩悩具足(ぼんのうぐそく)の凡夫 (ぼんぶ)
  火宅無常(かたくむじょう)の世界は、
  よろずのことみなもって、そらごとたわごと、
  まことあることなきに、
  ただ念仏のみぞまことにておわします


         『歎異抄(たんにしょう)』より
   

大府市S・E氏提供


火宅無常の世界

 

 

 ご承知のように3月11日東北地方を中心に激震が発生しました。加えて、猛烈な津波が発生し街々を襲い、その様子がテレビで生中継のように報道されました。大きなうねりが海岸線の堤防を乗り越え、建ち並ぶ家々をプカプカと浮かせながら奥へ奥へと流れ込みます。まるでミニチュア・セットで映画を撮影しているよう。

 我が眼を疑いましたが、これは現実だったのです。あの流されていく家々、住人が中にいながら流された住家もあったでしょう。とにかくショックでした。その後続報で、あちらの街こちらの村に押し寄せる津波の実態が“実況中継”のように放映されました。犠牲になられた方々には心より哀悼の誠を捧げ、被災されたみなさまには衷心よりお見舞い申し上げます。

東北地方の地理に疎い私にとっては、津波被害を受けた海岸線が数百キロ及ぶと聞いてビックリ。素人判断でも、当該地の復興には膨大な資金と長い年月を要し、並大抵ではないと思っていた矢先、新たな難問題が発生。それは東京電力の福島第一原子力発電所の津波被害に伴う放射能漏れ。

東京電力も、原子力安全委員会も、内閣も全く未経験の事態。試行錯誤・手探りの対応しかとれないことはよく分かりますが、地震発生から2ヶ月を経て炉心溶融が疑われると発表。何か胡散臭い説明のようでした。うがった見方をすると、当初からその事実が分かっていたのにプレス発表をしなかったように思われてなりません。

ことほど左様に、何か“後出しジャンケン”のような対応が多かったような気がしてなりません。もちろん“未知との遭遇”ですので判断間違いや計算間違いもあるでしょうが、事実のまま発表してもらいたいものです。報道番組では、キャスターの問いかけに対していわゆる「学識経験者」がコメントするケースがたびたび見受けられましたが、当局者の発表内容に鋭く切り込む例はあまりなかったように思います。

一方、自身で解析したデータを基に、なるほどと思わせる解説をされるコメンテーターもいました。また、4階建のビルが津波で浮き上がって横倒しになり数十メートル押し流された現場では、ある地震学者は「想定外のことです」とおっしゃっていました。ビルが根こそぎ倒されて流されるような巨大津波は想定していなかったということなのでしょう。

 となると、「想定」とはいったい何なのでしょう。防潮堤の高さからすれば、津波の高さは最高数メートルと想定したのでしょう。百年か二百年遡って当該地を襲った津波のデータを基に防潮堤の高さを設定したと思われます。確かに過去の経験・歴史等を基に災害等の状況を想定し、その対応策を考えることは当然のことで間違いではありません。今回の経験を踏まえて「想定」が変えられ防潮堤・防波堤の高さの基準が改定されることでしょう。しかし、その新基準も「絶対」ではなく、あくまでも「相対」の世界での定めであることを心にとめておくべきだと思います。

「よずのこと、みなもってそら(空虚)ごと、たわ(根拠のない)ごと」の世界、みな仮の世界でのこと、と『歎異抄』は教えてくださっているのです。同じ意味のことを聖徳太子は「世間虚仮、唯仏是真」とおっしゃっています。いくら科学文明が進歩し、科学技術が発達してもやはり「人知」は人知、大自然の「真理」に対しては謙虚であるべきだということを、今回の大自然災害が私たちに教えてくれているのだと思います。

                                     合掌

2011.5.15 前住職・本田眞哉・記》

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