法 話

(126)青色青光(しょうしきしょうこう

   


   

大府市S・E氏提供

 

青色青光(しょうしきしょうこう



 当山前住職・本田眞哉は、名古屋市昭和区にあります社会福祉法人「愛知育児院」の理事長職をお預かりしております。去る8月22日開催の理事会で再選され引き続き理事長職を勤めさせていただくことになりました。2005(平成17)年8月22日の初任から3期6年間の任期を満了して第4期7年目に入ったわけです。

 愛知育児院の歴史は古く、その淵源を訪ねると今から120年余前の1886(明治19)年に遡ります。1886(明治19)年は日本で初めて内閣管制が制定され、伊藤博文初代総理大臣が就任した翌年。帝国憲法発布や東海道線開通より3年前、「鹿鳴館舞踏会」華やかなりしころ。

 そんな時代に、恵まれない子どもたちのために福祉施設設立を発願し、「私」を捨てて献身し偉業を成就された森井清八氏には、ただただ頭が下がる思い、脱帽の他ありません。爾来、森井氏の福祉にかける願いを受けた奉仕精神の伝統が、連綿と受け継ぎ伝えられてきました。いま本院に身を置く私たちも、それを間違いなく受け継ぎ、次の世代へ、新しい時代へと伝えていかなければならないと思うや切であります。

ところで「伝統」とは何なのでしょう。古くから伝えられてきたことを単に前世代から受け継ぎ、そのまま次世代へ伝えることではないと私は思います。前世代から受け継いだものを受け取り直して、言い換えれば受け継いだものにその時代の息吹を込めて次の世代へ伝えていくことが真の伝統であると思います。

そうした意味でわが愛知育児院の120年を超える歴史を検証してみますと、ズバリその通り。いわゆる「孤児院」として創設された愛知育児院は、明治・大正期は身よりのない子、恵まれない子たちを育成し、昭和期では太平洋戦争が生み出した不幸な子どもたちの拠となりました。

1996(昭和44)年には、児童養護施設に加えて保育所・南山ルンビニー保育園を設置。地域社会の保育事業の一端を担うことになりました。そして1999(平成11)年4月には、時代の要請を受けて特別養護老人ホーム南山の郷、ケアハウス南山の郷を開設。さらに翌年4月には居宅介護支援事業所を立ち上げました。

こうした歴史は、まさに「時機相応」の事業展開のもと、発展を続けてきた本院の足跡を物語っていると思います。時代々々の要請に応え、自らも変革しつつ、先人の遺業を礎として新たなる出発を積み重ねてきた姿といえましょう。

 そうした中、社会福祉事業に対する時代社会のニーズが刻々変化して来ております。本院もそうした変容する要請に応えて、この度高齢者のための3事業を展開することになり、理事会・評議員会の審議を経て、「認知症対応型共同生活介護」「小規模多機能型居宅介護」「適合高齢者住宅」のための施設を新設することになりました。

1年余に亘り計画を検討し所轄庁とも折衝を重ね、ようやく去る8月26日3事業のための統合建物の起工式を執り行う運びとなりました。設計監理は(株)錦建築設計にお願いし、施工は6社による一般競争入札の結果、(株)服部工務店が落札し工事を請け負っていただきました。起工式は、本院の設立基本理念に基づいて仏式(真宗大谷派:東本願寺)で執行しました。式次第・式の進行状況については愛知育児院のホーム・ページhttp://www.nanzan-v.com をご覧ください。

かくして、愛知育児院の歴史の中に新しい1ページが書き加えられようとしています。まさに「時機相応」の事業展開のもと、発展を続けてきた本院の足跡の一つとして後世に伝えられることでしょう。時代のニーズに応え、自らも変革しつつ、先人の遺業を礎として新たなる出発を積み重ねてきた姿といえましょう。

愛知育児院の伝統は、時の流れが変転するなか受け取り直されて、新たな息吹を得て次の世代にバトンタッチされてきたのです。単に「受け継ぎ伝える」のではなく、「受け取り直して」次世代へ伝えるという、「伝統」本来の意義が、ここ愛知育児院で具現化されていると言っても過言ではありますまい。

一方、愛知育児院の歴史・120年を終始一貫する不易なものがあります。それは何かといえば「基本理念」。愛知育児院創立の基本理念は、仏教精神に基づく「仏教福祉」です。そしてそのキーワードは「いのちの輝き」。「いのちの輝き」の内包する意味は実に深遠広大ですが、その意味するところを仏典に尋ねますと、次の聖句からその一端を学ばせていただけるのではないかと思います。

青色青光(しょうしきしょうこう)

黄色黄光(おう しき おう こう)

赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)

白色白光(びゃくしきびゃっこう)

これは『佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)』の一節ですが、「青色は青い光を放ち、黄色は黄色の光を出し、赤色は赤く輝き、白色は白く光る」といった意味。それぞれが、それぞれ。それぞれのいのちが、それぞれに輝いているということです。青色(の人)は黄色(の人)の存在を認め、黄色(の人)は青色(の人)の青い光を尊重する。赤色(の人)は、白色(の人)に赤い光を出すように強要したり、白色(の人)が赤い光の存在をネグレクトしたりしてはいけない…とお教えいただくのです。

こうしたことは、近くは家庭内から近隣社会、国家に至るまで人と人の間、すなわち「人間」集団のなかで欠くべからざるものです。もちろんわが愛知育児院のあらゆる事業活動においても強く求められる基本理念です。利用者へのサービス提供の場合はもちろん、職員と職員の間、あるいは入所者集団の調整場面等においても忘れてはならないテーマです。互いに違いを認め合い、尊重し合って、思いやりの精神を基調とした業務を推進し、本法人の特色を発揮していきたいものです。        

合 掌

2011.9.2 前住職・本田眞哉・記》


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