法 話

(14)「心性(しんしょう)もとよりきよければ」(上)

 このところ、わが国の政治・経済・社会面ではなんと問題・事件の多いことでしょう。政・官・業界の絡んだ汚職、政治家の秘書給与問題、食品業界の不当表示偽装事件、大企業の倒産、保険金殺人事件、次から次へと明るみ出る幼児虐待、ますます深刻さを増す高い失業率…、枚挙にいとまがありません。

 そんななか、今度は「Mフィナンシャル・グループ」の大銀行統合によるITトラブル。世界に冠たる日本の金融機関の信用も地に堕ちたものです。銀行の振り込み証票は絶対的な証拠となり、銀行の残高証明は官公庁をはじめ会社・団体の決算書の確たる残高証明書類として欠かせないもの。それが、決められた月日に送・入金できないとなれば大問題。口座残高不足の手形や小切手の決済は法的にどうなるのか、などという素人の疑問はお笑いごとなのでしょうか。

多大な信頼を得てきた銀行が、保身のためか、国益のための国策か知りませんが、盛んに統合・合併を進めています。ゼネコンをはじめ、経営難に陥った大企業もめまぐるしく統合・合併の道を選んで生き残りを目指しています。結構なことではありますが、そこには当然銀行の介入といいましょうか支援が必要であります。

そこで銀行は、大企業の“経営再建”のためなのか、“不良債権処理”のためなのか、報道によれば何千億円という借金を棒引きにするという。われわれ庶民には100円たりとも棒引きしてくれませんが…。とにかく大企業を救うためには、やはり銀行は大き方がよい、また多大な資金量が必要、そこで統合・合併ということになるのでしょうか。あるいは、銀行自身の倒産防止のためでしょうか。

 しかし、われわれ末端のクライアントにとっては、銀行の統合・合併はデメリットのみ、といったら過言でしょうか。ただ統合して大きくなればよいという問題じゃないと思います。図体が大きくなれば血の巡りが悪くなるのは理の当然。小回りの利くサービスはどうしても低下することになりましょう。事実、統合して大きくなったU銀行、最近の顧客サービスの低下は目に余るものがあります。以下は私の体験談。

 昨年の11月、U銀行のある支店に御遠忌事業募財のために新規口座を開設し、取引情報を寺務所へ送信していただくよう「ファクシミリサービス」の契約をしました。手続き作業でかなり時間を要しましたが、121日付けでスタートしました。ところが、その後取引情報は1件も入らず「音信不通」。U銀行を利用されるご門徒はないのかなと思って222ATMで記帳したところ、なんと8件の入金があるじゃありませんか。早速窓口で問い質しましたが要領を得ず、調査をして後刻電話するとの返答。

 ところが、23日待ってもナシのつぶて。しびれを切らして、こちらから23回コンタクトをとったのですが、担当者が不在とか何とか、伝言も届いたのか届かなかったのか不明で埒があきません。結局システムの調査と改善に4週間を要し、3月下旬ようやく「ファクシミリサービス」が稼働する運びとなりました。その間、手数料だけはちゃっかり毎月引き落とされていました。開通後、この手数料はどうなるのかと質したところ、「あっ、そうか…」といった感じで、しぶしぶ「返金します」と無愛想に応答。

 天下のU銀行が昔の役所並み?の態度とサービス。大銀行になって品格が上がったのか落ちたのか、はたまた末端の小顧客は問題にしていないのか。ペイオフが始まって顧客は自己管理責任において銀行を選ばなければいけない時代になりました。銀行を選択する場合、自己資本比率とか預貯金量とか客観的なデータがその基準になるようですが、顧客に対するサービスの質も一つのファクターになるのではないでしょうか。

もちろん、サービスの質が直接的に数字に現れることはないでしょう。しかし、そうした現象が現れるということは、そのベースにある経営体質が問題なのかも知れません。あるいは逆に、サービスの質が経営体質をむしばんでいるのかも。ある保険会社では自社の格付けをPRしています。銀行にも格付けがあるとすれば、顧客が選択を選択する有力な指標となるでしょう。

格付け云々は別としても、M銀行にもU銀行にも「たるみ」があることは間違いありません。これは小さな「たるみ」かも知れませんが、その積み重ねが「蟻の穴から堤防も崩れる」の例えのごとく、経営内容に隠然たる影響力をもたらすことになるかも。因みに、地元の知多信用金庫と碧海信用金庫からは、契約直後から何のトラブルもなく情報が送られてきています。きめ細かなサービスにクライアントは満足しています。

一方、新聞に目を転じますと、法の番人・悪のお目付役の不祥事も後を絶ちません。きょうの紙面だけでも警察・検察の事件がゾロゾロ。ヘッドラインを列挙すれば

「警視庁公安警視が痴漢」

「元警察学校教官わいせつで有罪」

「大津地検事務官電車内で痴漢」

「福島県警女子トイレでのぞき現行犯」

今さら記事の内容にふれる必要もありませんが、開いた口が塞がらないとはこのことでしょう。

そうそう、先日はもっと大ものの事件がありましたっけ。それは大阪高検の三井環前公安部長の逮捕。容疑は、競売で入手したマンションの税金をごまかすために、居住しているかのように見せかける不適切な住民登録をしたこととのこと。しかもこの事件には暴力団が絡んでいたとか。

東京地検特捜部といえば、数々の政界の汚職事件を摘発し、不正をあばき、正義の味方として国民の間にその名を馳せています。それに対して、同じ検察の、しかも高等検察庁の幹部・検事長が暴力団がらみの違法行為で逮捕されるという前代未聞の不祥事を惹起。国民としては、法の番人への信頼が無惨にも裏切られたという思いです。

政治家も官僚も銀行も食品会社も信用を失っている現在、不正や疑惑を摘発し悪を懲らしめる公権力に従事する人たちまでもが腐敗してしまっては、私たち庶民は何を正義と信じたらよいのか、困惑を通り越して憤りを感じます。

そうした折りもおり、半田区検察庁から電話が入りました。合掌。【次回へ続く/2002.4.26.住職・本田眞哉・記】

  

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