法 話

(150)理事長退任 

 

 

   



大府市S・E氏提供
           


「理事長退任」
  
         
 


 
 
 
 
 去る822日午後4時から社会福祉法人「愛知育児院」の理事会が開催されました。私の「開会あいさつ」のあと議長を選出し「議事」へ。第1号議案は「任期満了による理事長互選の件」。議長は第1号議案を上程し、理事の皆さんに意見を求められました。早速私が挙手をして発言。「48年理事長職をお預かりしてきましたが、高齢になったこともあり、新進気鋭の理事に次期理事長職のバトンをお渡ししたい」。

 これに対して、「引き続き理事長職を続けて戴きたい」とのご要望や、「長い間ご苦労戴いたこともあり、ご本人のご意志を尊重すべきだ」「あと1期だけとのことで2年前にお引き受けされたので仕方ない」等々のご意見も。議長は全理事から意見を聴取し、最終的には私の申し出が受け入れられ、次期理事長に寺西伊久夫常務理事を選出。ヤレヤレ。

 社会福祉法人「愛知育児院」は、名古屋市昭和区南山町にあります。運営施設は、児童養護施設「南山寮」、「南山ルンビニー保育園」、特別養護老人ホーム「南山の郷」、「南山の郷デイサービスセンター」、ケアハウス「南山の郷」。加えて、2012(平成24)年4月には新しく3施設を開設。それは、地域密着型複合施設「みなみやま」。その内訳は、定員6名の高齢者向け住宅、定員18名の認知症グループホーム、そして定員25名の小規模多機能ホーム。

 こうした伝統施設と最新施設を併せ持つ我が法人の歴史を尋ねてみますと、そのオリジンは1886(明治19)年。今から127年前に産声を上げたのです。2008(平成20)年10月、東京の新霞ヶ関ビルの内灘ホールで全国社会福祉協議会創立100周年記念式典が開催されました。天皇皇后両陛下ご臨席のもと、愛知育児院は特別表彰の栄に浴しました。特別表彰を受けた40法人の中で、我が法人の創立年月は古い方から数えて数番目。

1886(明治19)年は、日本で初めて内閣官制が制定され、伊藤博文初代総理が就任した翌年。帝国憲法発布や東海道線開通より3年前、「鹿鳴館舞踏会」華やかなりしころ。そんな時代に、恵まれない子どもたちのために福祉施設設立を発願し、「私」を捨てて献身し偉業を成就された森井清八氏には、ただただ頭が下がる思い、脱帽の他ありません。爾来、森井氏の福祉にかける願いを受けた奉仕精神の伝統が、連綿と受け継ぎ伝えられてきました。

ところで「伝統」とは何なのでしょう。古くから伝えられてきたことを単に前世代から受け継ぎ、そのまま次世代へ伝えることではないと私は思います。前世代から受け継いだものを受け取り直して、言い換えれば受け継いだものにその時代の息吹を込めて次の世代へ伝えていくことが真の伝統であると思います。

そうした意味でわが愛知育児院の120年余の歴史を検証してみますと、ズバリその通り。いわゆる「孤児院」として創設された愛知育児院は、明治・大正期は身よりのない子、恵まれない子たちを育成し、昭和期では太平洋戦争が生み出した不幸な子どもたちの拠となりました。

1969(昭和44)年には、児童養護施設に加えて保育所・南山ルンビニー保育園を設置。地域社会の保育事業の一端を担うことになりました。そして1999(平成11)年4月には、時代の要請を受けて特別養護老人ホーム南山の郷、ケアハウス南山の郷を開設。翌年4月には居宅介護支援事業所を立ち上げました。さらに前述のように、昨年4月には地域密着型複合施設「みなみやま」を新築設置。

こうした歴史は、まさに「時機相応」の事業展開のもと、発展を続けてきた本院の足跡を物語っていると思います。時代のニーズに応え、自らも変革しつつ、先人の遺業を礎として新たなる出発を積み重ねてきた姿といえましょう。

愛知育児院の伝統は受け取り直されて、新たな息吹を得て次の世代にバトンタッチされてきたのです。単に「受け継ぎ伝える」のではなく、「受け取り直して」伝えるという、「伝統」本来の意義が、ここ愛知育児院で具現化されていると言っても過言ではありますまい。

一方、愛知育児院の歴史・120年を終始一貫する不易なものがあります。それは何かといえば「基本理念」。愛知育児院創立の基本理念は、仏教精神に基づく「仏教福祉」です。そしてそのキーワードは「いのちの輝き」。「いのちの輝き」の内包する意味は実に深遠広大ですが、その意味するところを仏典に尋ねますと、次の聖句からその一端を学ばせていただけるのではないかと思います。

青色青光(しょうしきしょうこう)

黄色黄光(おう しき おう こう)

赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)

白色白光(びゃくしきびゃっこう)

これは『佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)』の一節ですが、「青色は青い光を放ち、黄色は黄色の光を出し、赤色は赤く輝き、白色は白く光る」といった意味。それぞれが、それぞれ。それぞれのいのちが、それぞれに輝いているということです。

青色(の人)は黄色(の人)の存在を認め、黄色(の人)は青色(の人)の青い光を尊重する。赤色(の人)は、白色(の人)に赤い光を出すように強要したり、白色(の人)が赤い光の存在をネグレクトしたりしてはいけない…とお教えいただくのです。

こうしたことは、近くは家庭内から近隣社会、国家に至るまで人と人の間、すなわち「人間」集団のなかで欠くべからざるものです。もちろんわが愛知育児院のあらゆる事業活動においても強く求められる基本理念です。利用者へのサービス提供の場合はもちろん、職員と職員の間、あるいは入所者集団の調整場面等においても忘れてはならないテーマです。

互いに違いを認め合い、尊重し合って、思いやりの精神を基調とした業務を推進し、本法人の特色を発揮していきたいものです。各施設長をはじめ職員各位には、今後とも本法人の基本理念である「仏教福祉」を常に念頭に業務に励まれんことを念じて止みません。      

  合掌

《2013.9.3 前住職・本田眞哉・記

  to index