法 話

(18)「学力」とは?

 「新学習指導要領、親の4人に3人が『学力低下心配』」「週5日制、3割戸惑い」。822日付けの『中日新聞』の見出し。テレビなど他のメディアも同じ内容を報じていました。日本PTA全国協議会(P)が、PTA役員を対象に行った調査の結果とのこと。6,000人に調査票を配布して4,777人から回答を得たという。

 記事中のデータを拝借すると、学力低下については「かなり心配」が25.5%、「多少心配」が49.2%で、合計すると全体の四分の三、4人に3人が心配していることになります。

 一方、学校週5日制については、「始まったばかりで何とも言えない」が41.1%で最多。「戸惑っている」が21.9%、「安心して働けないなど困っている」が6.9%で、計28.8%が戸惑いを感じているようです。逆に、「親子の触れ合いなどが増えて良い」という回答は14.5%にとどまったとのこと。

 新学習指導要領への期待(複数回答)としては、「子どもの学習意欲や関心を生かせる」(34.8%)、「学校教育の質の改善が期待される」(33.2%)、「子どもの生活にゆとりができる(24.8%)などの順で回答が寄せられ“評価”されています。

 反面、心配な点(複数回答)については、「教育内容や質の格差が生じる」が57.1%で最多。続いて「子どもの学力格差が拡大する」が45.0%、「全体として学力が低下する」が39.0%となっており、「期待よりも心配の方が高率だった」と記事は結んでいます。

 この記事を読んで、私は思わす「ウーン」と唸ってしまいました。PTA役員にしてこの回答なのか、否、PTA役員だからこの回答なのか不可解。10年余に及ぶ「教育改革」はいったい何だったのか、と思わざるを得ません。

 「落ちこぼれ」「いじめ」「不登校」「校内暴力」「授業崩壊」「キレる」などのキーワードに象徴される子どもたちの問題行動の背景には、学校教育に何か根本的な“欠陥”があるのではないか。子どもたちの思いと、どこかでボタンの掛け違いがあるのではなかろうか。

 そうした反省・点検のなかから、その“欠陥”は知識偏重の詰め込み教育にあり、しかも、そうした教育の“成果”として、成績によって子どもたちを“輪切り”にして“進学指導”に血道を上げてきたところにあった、と総括したのではなかったでしょうか。そして、そうした“欠陥”を是正しようと、改革の歩みが始まったはずです。

 議論をし、試行し、点検し、実践して…、さらに議論をし、実験と反省を繰り返し…という10年余の取り組みのなかから生まれたアクションプランの第一歩が、このたびの「新指導要領」と「週5日制の完全実施」だったと私は思います。施行してわずか半年に満たないこの時期、冒頭のような意識調査の結果が出たことを知り、何か改革の流れに竿を差されたように感じるのは私ひとりでしょうか。

 5日制の問題点である土曜日の“活用”については、各地域・各校でいろいろ工夫を凝らしているようです。わが東浦町の小中各校においても「学校開放土曜講座」「SS(Saturday Special)スクール」とか「土曜講座」などと銘打って任意参加の各種講座が開設されています。

いずれも地域と密着したかたちで、郷土の伝統文化の継承とか、福祉関連、スポーツ活動等を内容とした企画が多いようです。開放講座は、スタッフとして地域ボランティアやPTA会員が支援参加し、地区の古老の指導や話も加わって活気に満ち、子どもたちは興味・関心をもって幅広い学習に参加できて喜んでおります。

 私学でも以前からこうした土曜講座開設に取り組んでいる学校があります。私がかつて関わっていた、名古屋の同朋高等学校では、数年前より月2回の土曜日に任意参加の「自由選択講座」を開設しています。講座内容は実に多岐にわたっております。“名は体を表す”講座名の例を挙げれば―。

 「英検準備講座」「ドイツ語入門」「宮沢賢治の世界」といったおカタイものから、「誰でも打てる本格手打ちそば」「インターネットと名刺作り」「魚の三枚おろしに挑戦」といった実用向きまで幅広い。さらに、人生・趣味・スポーツ・音楽・芸術・福祉・保健・国際交流・環境等々の分野にわたって数多くの講座を開設。これまた例示すれば、曰く―

 「歎異抄を読む」「楽しい将棋」「乗馬入門」「パソコンで作曲しよう」「舞台演出講座」「車椅子を知ろう」「GIVE! YOUR BLOOD」「留学生と語ろう」「オール電化は環境にいいのか」etc. 1回平均30講座、中学生向けも含めると年間開設口座数は300余。

 上記公私いずれのケースも、受験勉強一本槍の詰め込み教育の弊害を排し、主体的に学ぶ教育により人間形成をめざすという、国の教育改革の流れに沿った取り組みであることは間違いありません。

このたびの教育改革のポイントの一つは、一律で平準化された詰め込み教育から、一人ひとりの「個性」を重視し、「生涯学習」を見据えて、「学び方(自己教育力)」を身につけさせる教育への転換であります。言い換えれば、子どもを白紙の受動的な存在としてではなく、能動的な学習の主体としてとらえ、子どもたち一人ひとりの個性的な学習の成立を保証する教育が求められているのです。

 ところがです、一方で「学力低下」を防ぐため、公立学校で土曜日に補習授業を実施することになった、とメディアが伝えています。さらに当局の一部ではこれを容認する声も。いったいどうなっているのでしょう。 合掌。   【2002.9.2.住職・本田眞哉・記】

      

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