法 話

(191)安心定意して、安楽に生ず  

  

 

 

   

 


大府市S・E氏提供

 

「安心定意して、安楽に生ず」

                                    善導大師『般舟讃』より




 最近テレビや新聞等で医療の問題がたびたび報道されています。例えば、体調不良を訴えて救急搬送を依頼した女性(89)が、近隣の30病院に相次いで受け入れを断られ、約2時間後に市外の病院に運ばれたがすでに死亡していたことが分かった。受け入れを断った理由は「ベッドに空きがない」とか「急患がいて対応できない」などだったという。

その他にも救急患者のたらい回し、産科医・小児科医の不足、赤字経営の病院があちらにもこちらにも等々、医療を取り巻く問題は枚挙にいとまがありません。こうした一連の問題の根っこには一体何があるのでしょう。私の友人で元公立病院長の医師の話では、医師の数が少ない、医師数が絶対的に不足しているということ。

OECD加盟国の人口1,000人あたりの医師数では、日本は27位で2.0人。トップはギリシャの4.9人。次いでイタリアが4.2人、ドイツ3.4人、アメリカ2.4人、そしてイギリスが2.3人。日本はポルトガルやハンガリーより下位。因みに、OECDの平均は3.1人。OECDの平均値まで充足するには、トータルで医師を14万人増やさなければならない。ドイツの水準まで引き上げるには18万人の医師の充足が必要という勘定。

一方、病床100床あたりの医師数も先進各国に比べて極めて低い水準にあります。アメリカの63.9人、ドイツの36.5人に対して日本は12.0人。アメリカの5分の1、ドイツの3分の1しかありません。入院した時、医師や看護師に声をかけたくても忙しそうで声をかけられなかったという経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。

日本の医療界がこうした医師不足を頂点とする過酷な状況に陥ったキー・ポイントはどこにあるのでしょう。元病院長はズバリ、「国の医療費抑制策にあります」と。国は1983年以降、「医師が増えると医療費が増加する」という「医師過剰論」をふりまいて、医学部定員を減らしてきたのです。医療の専門分化と高齢者増加に対応するために医師養成に力を入れてきた欧米諸国に対して、日本は逆方向の政策をとってきたわけで、今に至ってその差が歴然と現れてきたのです。

では、日本の経済力・GDPは、国民が安心して頼れる医療費をまかなえないほどプアなのでしょうか。加盟国のGDP(国内総生産)に対する医療費の割合を国際比較した資料(2004年のデータ)では、アメリカは15.3%と飛び抜けて、トップ。次はスイスの11.6%。以下ドイツの10.9%、フランスの10.5%、アイスランドの10.2%と続きます。日本はなんと8.0%で21位。1998年のデータでは日本は7.5%で18位。6年間で日本のパーセンテージは0.5%上がったものの、順位は3ランク下がっています。

一方、その分母である日本のGDPは如何にと調べてみれば、何とアメリカに次いで世界第2位。ということは、日本の経済力ならば国家予算からもっと医療費に回すお金はあるはず。ところが実際は逆。国の医療費負担は減り続けています。企業の負担も減り続け、逆に家計の負担は増えてきています。国は国民健康保険への税金からの支出を抑え、個人が払う国民健康保険税は上がってきています。患者の窓口負担も増えています。

こうした日本の医療の危機的状況から抜け出すには国家予算の歳出を見直す必要がありましょう。日本の防衛費(軍事費)は4兆7千億円余で世界ランキング第2位。1隻1,400億円もするイージス艦や1台10億円の戦車の調達を少し減らして防衛費の1割をカットし、公共事業費6兆6千億円の1割をカットすれば1兆円が生み出せるはず。厚生労働省では、勤務医を1名増やすには年間8,000万円が必要であると計算しているようですので、1兆円あれば勤務医を12,500人増員することができる勘定になります。

さて、話を元へ戻しまして、日本の病院の3分の2は赤字経営とか。いずれ閉鎖に追い込まれるとなれば、地域住民は安心して診療を受けられる拠点を失うことになりましょう。でなくても、入院後2週間目で入院報酬が減額になり、そして3か月経つと治っても治らなくても?病院を追い出されて医療難民になるという現状。こんな冷たい仕打ちはもうご免。

日本の医療費のトータルは30兆円といわれています。例えが悪いかも知れませんが、パチンコ産業の30兆円と同じ。何か考えさせられる数字です。日本の医療の崩壊を何としてでも防がねばならないと思うや切であります。 

合掌

2017.2.2 前住職・本田眞哉・記》

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