法 話

(57)「白色白光(びゃくしきびゃっこう)

青色青光(しょうしきしょうこう)


 黄色黄光
(おうしきおうこう)


 赤色赤光
(しゃくしきしゃっこう)


 白色白光
(びゃくしきびゃっこう)

─『佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)

   

 去る10月22日、名古屋マリオットアソシアホテルで開催された、名古屋市立大学第2内科開業医会総会で講演をさせていただきました。刈谷高等学校の同級生で、同会の会長を務める神谷ヨ彦・新林内科医院長の依頼を受けての出講。

 会員が開業医であることから、今までは医院経営とか医療専門の講演が多かったようですが、異分野の話にも耳を傾けようと方針転換して私の方へお鉢が回ってきたという次第。出席者は開業医の錚々たるメンバーに加えて、来賓として上田龍三名古屋市立大学病院長もご臨席で、私もいささか緊張気味。

 演題は「異文化交流あれこれ」。インドネシアはジャワ島中部ケドウ盆地にある、大乗仏教の遺跡「ボロブドゥール」の修復支援活動がご縁となって展開された国際交流・異文化交流についてお話ししました。

1976年のボロブドゥール第一次踏査を発端とした修復支援活動から、1995年のインドネシア独立50周年記念慶祝イベント開催に至るまで、現地及び日本国内で企画実施した数々の交流事業を紹介。最後に、異文化交流活動の根底には、それぞれの文化が持つ固有の伝統と特色を互いに理解し尊重する姿勢を忘れてはいけないという、基本的な理念と申しますかスタンスについて付言して話を結ばせていただきました。

話変わって11月10日、地元の東浦中学校で研究発表会があり、役職柄出席し参観する機会を得ました。文部科学省から平成16・17年度「帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域」センター校の指定を受けたことによる研究発表。

研究主題は「認め合い、支え合う心豊かな生徒の育成」−友達や地域との関わりを通して−。東浦町内外には自動車関連等の工場がたくさんあり、そこで働く外国人がここ10年間で急速に増加。なかでも東浦中学校区にある県営東浦住宅にはブラジル人を中心とした外国人が大勢居住しています。同地区の石浜西小学校では在籍児童の31%が外国人。

グローバル化という言葉はどこかよそのことのように思っていましたが、現実はわが地元足元にも及んでいるのが実態。県営東浦住宅のご門徒宅へお参りに行くと、必ず1人や2人の外国人に出遇います。また、ブラジル人相手の食材店が複数店開業し大繁盛。

こうした地域性をにらんで文部科学省が東浦中学校を研究指定校にしたかどうか定かではありませんが、好むと好まざるとに拘わらず国際化が求められるなか、「認め合い、支え合う」をベースにした実践研究が進められることは、教育の国際化推進のためには大変有意義なことだと思います。

加えて11月22日、同じく地元の片葩(かたは)小学校で研究発表があり、公開授業を参観させていただき、研究実践報告の発表の場にも出席させていただきました。こちらは、平成16・17年度文部科学省「人権教育」の研究指定を受けての発表。

研究主題は「自他の価値を尊重した学校生活の創造」−人権を手がかりとした学校づくりを目指して−。そもそも人権とは何ぞや。人権は人間が生まれながらにして持っている権利で「国家以前の権利」ともいわれますが、正直言って掴みどころのない大変難しい概念。さらに人権教育の課題となると、「女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人など多岐にわたり、その背景も多様(同校『研究紀要』)」であります。

同校ではこうした課題を個々に取り上げて真正面から対応するのでなく、「自他の価値の尊重」という切り口から人権教育の実践を進めようということなのでしょう。具体的にいえば、「互いに違いを認め合い、尊重し合って、思いやりの心をもって共存し合える地域社会づくり(同校『研究紀要』)」を目指すことなのです。

以上は私がここ1ヶ月の間に見聞・経験した3つの話題。別にオムニバス・スタイルや、落語の三題話にしようというわけではありませんが、これら3つの話題には共通する何かがあると感じて、ここに連ねて認めた次第。

その共通する何かをキーワードで言えは、「青色青光(しょうしきしょうこう) 黄色黄光(おうしきおうこう) 赤色赤光(しゃくしきしゃっこう) 白色白光(びゃくしきびゃっこう)」。これは『佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)』の一節ですが、「青色は青い光を放ち、黄色は黄色の光を出し、赤色は赤く輝き、白色は白く光る」といった意味。それぞれが、それぞれ。

青色(の人)は黄色(の人)を認め、黄色(の人)は青色(の人)の青い光を尊重する。赤色(の人)は、白色(の人)に赤い光を出すように強要したり、白色(の人)が赤い光をネグレクトしたりしてはいけない…とお教えいただくのです。

これこそ、「互いに違いを認め合い、尊重し合って、思いやりの心をもって共存し合える地域社会づくり」「認め合い、支え合う心豊かな生徒の育成」に欠かせないコンセプトだと思います。また、このことは、国際交流・異文化交流の場においても同様に求められるテーゼだと思います。国と国の間の差異(違い)、民俗と民俗の間の差異、また、それぞれ固有の文化の差異を認め合い尊重し合うという視点を欠いたら真の国際交流、文化交流はできません。

他国・他民族の伝統・歴史・文化を理解し認め合うことなく、自国の伝統、自民族の宗教を押しつけたり、他国・他民族の文化・習俗をないがしろにして自国・自民族の文化・習俗に統合しようとしたりすれば当然軋轢が生じ、果ては紛争・戦争への道を歩むことになるでしょう。

国際交流ということは、国と国、民俗と民俗を同一化したり統合したりして仲良くしようということでなく、逆に国や民俗の独自性をはっきり認識することが出発点になると思います。国際の「際」は文字通り「きわ」、まずは国と国との間の「きわ」をはっきり認識することが肝要です。

周知の通り英語で「国際」はinternatinal。Interは、「中・間・互いに」などの意味の接頭語。したがって、inter-nationalは、国(nation)と国(nation)の間・相互であって、国と国が同一(uni)化するuni-nationalではないのです。「際」を取り去ることなく、否、むしろ「際」を互いにはっきりと認識し尊重しつつ交流を持つことが真の意味の国際交流、異文化交流といえるのではないでしょうか。合掌

《2005.11.1 住職 本田眞哉・記》

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