法 話

(71)「多文化共生(上)」

 一切の有情(うじょう)

 みなもって

 世々生々(せせしょうじょう)

 父母(ぶも)兄弟なり

歎異抄より



多文化共生(上)

 

先日地元の教育委員会の研修視察で横浜市立いちょう小学校を訪れる機会がありました。この小学校を視察先に選んだのは、外国籍の児童が多数在籍しているという情報に基づいてのことです。わが東浦町立石浜西小学校にも外国籍児童が多数在籍し、現場の先生方は多国籍児童に対応する教育に工夫を凝らしながら日夜取り組んでいます。いちょう小学校の取り組みを視察して本町の教育の参考になればと訪問した次第。

いちょう小学校は横浜市泉区上飯田町、いちょう団地の中にありました。といっても位置関係が掴めないかと思いますが、端的に言えば横浜市の西の端、大和市と境を接する地区。すぐそばを東海道新幹線が通っていますが駅はなく、おまけに「のぞみ114号」は新横浜駅をパス。品川で下車して東海道本線に乗り換え、藤沢まで“スイッチバック”。藤沢で小田急江ノ島線に乗り換え高座渋谷に到着。乗り換えはスムーズにいったものの、品川-高座渋谷の所要時間は1時間10分ほど。新幹線「のぞみ」の名古屋-新横浜の所要時間と余り差がありません。新幹線の効率のよさが分かるというもの。

高座渋谷駅前で昼食を摂りタクシーでいちょう小学校へ。高座渋谷駅のあるところは横浜市でなく隣接の大和市内のようで、車は古い家並みの中の曲がりくねった狭い道を進みます。しばらく走るとパッと視界が開け、先には高層アパート群。近づいていくと、このアパート群は川を挟んで二つの団地を形成していることが分かってきました。運転手さんの話によれば、この川が横浜市と大和市の境界の境川とのこと。

校長室では金野邦昭校長先生が私たちを迎えてくださいました。いちょう小学校は神奈川県営いちょう団地の中に在り、いちょう団地が学区とのこと。昭和40年代に団地が建設されて急激に人口が増加したのにともない、昭和485月この小学校が新設されということでした。児童数は一時期2,000名を超えたこともあったようですが、現在は在籍209名。かつての10分の1という、信じられないような激減ぶり。

一方、反対に外国人児童は増えているようです。平成元年頃から増え始め、現在は外国籍児童が88名とのこと。全校児童に占める割合は何と42.1%と驚異的。わが東浦町立石浜西小学校も外国人児童が多い点では県内有数。現在外国籍児童は94名。全校児童296名の約32%を占めています。児童数ではこれを上回る小学校が愛知県内に在りますが、パーセンテージではおそらく石浜西小学校が県内最高ではないでしょうか。

児童数のことはさておき、指導面での難度はいちょう小学校の方が石浜西小学校より高いという感じを受けました。というのは、外国籍が石浜西小学校の場合はブラジルとペルーの2か国に対して、いちょう小学校の場合は国籍が9か国に亘っているからです。ベトナム、中国、カンボジア、ラオス、フィリッピン、タイ、ブラジル、ペルー、エジプトの9か国。さらに、外国にルーツを持つ児童も指導の対象にしているとのことで、ボリビアとバングラディシュが加わり合計11か国。日本国籍ではあるが、外国にルーツを持つ児童27名を含めると全校児童に占める割合は55%にも及ぶとか。

それぞれの国の在籍児童数はといえば、ベトナムが圧倒的に多く59(4)名、次いで中国が13(18)名、カンボジア5名、ラオス5(1)名。《※カッコ内はその国にルーツを持つ児童数。》その他の国はそれぞれ12名。ベトナムの児童が多いのは、平成10年頃まで隣接の大和市に、いわゆるボート・ピープル、インドシナ難民の定住促進センターがあったことに起因するようです。センターを出た難民の人々が徐々にいちょう団地に住むようになり、さらに呼び寄せ家族が加わったということです。加えて、中国帰国者や縁者が入居するようになったことで、中国籍児童や関係児童が多く在籍しているとのことでした。

そうした状況の中、いちょう小学校では「多文化共生の地域・学校づくり」のテーマのもと、多彩な教育実践活動が展開されています。学校概要の説明の後、校内を見学させていただきました。かつては2,000名の児童数があったという校舎そのままを、現在はその1割の児童数で使用するというのですからスペースは余裕たっぷり。うらやましい限りです。各国文化の特徴を現す常設展示もゆったり。ふれあいのイベントや集いに使う部屋や、少人数学習の教室も確保されていました。

外国人児童への指導については、児童の実態に応じて日本語指導や教科指導が行われているとのこと。教室や廊下の至るところと言ってもいいほどに多国語の掲示物が見受けられました。例えば、「みんななかよしいちょうっ子 男の子も女の子も 大きい子も小さい子も…」といった日本語を中心に置いて、それを取り囲むようにして9か国語で表示してありました。また、あいさつの言葉を9か国語で表現したカード掲示も。アルファベッドや漢字はなじみ深いものですが、タイ語やカンボジア語の文字となると右から読むのか左から読むのか天地も分からず、書き表すのは大変なこと。

また、1人2人の国の児童に対しても、日本語適応の学習指導を行っているとのことで、非常にきめ細かい取り組みには感心しました。また、母語で日本語を教えるよりも日本語で日本語を教える方がよろしいとおっしゃっていましたが、そうした取り組みへのボランティアや「まち」の人たちの協力は不可欠であり、先生方も含めてその“熱意”は並々ならぬものだと感じました。校長先生は「寄ってたかって支援」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおり。資料によれば、いちょう団地連合自治会や子ども会、長寿会、学童クラブ等々との連携・協働の教育活動が年間十数回に及んでいるということです。  合掌

《次号へ続く2007.2.1 住職・本田眞哉・記》


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