法 話

(78)「虚仮不実

浄土真宗に帰すれども

真実の心はありがたし

虚仮不実のわが身にて

清浄の心もさらになし

親鸞聖人作『愚禿悲歎述懐和讃』より

虚仮(こけ)不実(ふじつ)

安倍改造内閣が船出しました。参議院選の大敗を受けて、いわゆる“お友達内閣”から脱皮して「人心一新」、適材適所の人事構成で名誉挽回しようという意気込みが見られます。まさに背水の陣といったところでしょうか。特に「政治とカネ」の問題で同じ轍を踏まないようにと、新閣僚選びには入念な“身体検査”したと伝えられています。

にもかかわらず、にもかかわらず、またもや問題が惹起しました。頭を下げたのは遠藤武彦農林水産大臣。同農相が組合長理事を務める農業共済組合による、国からの掛け金不正受給の問題。

私たちにはその問題の内容がよく分かりませんが、報道では同相がトップを務める山形県米沢市の置賜(おきたま)農業共済組合が農作物被害(ぶとう)を補償する農業共済で、加入者を水増しする手口を使って共済金115万円を国から不正に受給していたと伝えられています。

しかもこの事案は、3年前に会計検査院が実地検査で不正を把握し、今年5月の時点で不正受給の補助金が国に返還されていなかったため、山形県にも問題点を指摘したといわれます。同相も3年以上前からもこの不正を知っていたにも拘わらず、何の手も打っていなかった模様。

この問題が発覚した時点で、同相は「大変大きな由々しき問題と感じた」と記者会見でぬけぬけとおっしゃっています。加えて、この問題で大臣を辞任する意向のないことを表明しました。「当時の二人の課長がやったことで自分の指示ではない」とも。トップとしての監督責任はどう説明するのでしょう。

農相に絡む「政治とカネ」の問題は、今回の遠藤農相のみならず、前職の赤城徳彦農相も事務所経費の問題で更迭されました。前々農相松岡利勝氏も同じ問題で追求を受け自殺。事務所経理の不適切処理に関して国会の質問戦で「ナントカ還元水」と答えて、そのフレーズが人口に膾炙したのも記憶に新しいところ。

農林水産大臣職が三代続いて「政治とカネ」の問題を引き起こしていたわけで、全く異例のこと。「よくもまあ…」としか言いようがありません。安倍首相の「身体(辺)検査」機能はどうなっているのでしょう。TV会見などで、問題を起こした会社の社長や不正が発覚した団体の代表が頭を下げて謝罪した後、「二度と再びこのようなことが起こらないよう細心の注意を払います」と、その決意を披瀝しますが、安倍首相の場合どうだったのでしょう。

一方、政治家の事務所経費の処理の問題といえば、前述の遠藤農相が代表を務める自民党支部が不適切な献金を受けていたことも発覚しました。その他にも安倍改造政権中枢の岩城光英官房副長官の収支報告書にも不適切な処理があったということで、「訂正」したと報道されています。

坂本由紀子外務政務官にいたっては、同じところが発行した同一番号の領収書の出費額を、年度をまたがって三重計上していたことを公表しました。「年」を書き替え、「宛名」も書き替えてコピーしたもの。本人後援会宛が一枚、坂本由紀子党支部長宛が1617年度各一枚。

わが宗教法人会計でも税務署にこうした事実を指摘されれば、単に帳簿上で訂正するのみならず、二重出費分の金額は補填しなければならないし、代表者の個人所得と見なされ課税対象となります。坂本氏の場合、金銭処理はどうなるのでしょうかね。世間では通用しない話。

私が不審に思うのはこの「訂正」。三重計上した一枚分は正当に費消されたことでしょうが、あと二枚分の金銭は誰が受け取って何に使ったのでしょう。報告書等、紙の上では二重線を引いて訂正印を押せば「訂正」できますが、金銭面での「訂正」は不正流用した金額を元の会計に「返金」なり「返戻」する必要がありましょう。しかも年月を経てからの金銭の「訂正」は記憶を辿りつつ当事者をさがして返金させるのは大変な作業。

政治の世界の会計処理は世間の常識とは全く乖離した特殊なシステムという他はありません。マスコミも金銭の処理がどうなるかまで踏み込んで「訂正」問題を報道してもらいたいものです。一般社会では、税務署での申告はもちろん、任意団体の毎年度の決算でさえ領収証のコピーは通用しません。ましてや金銭の動きを伴わない決算書の「訂正」は不可能。

世にも不思議な会計処理が堂々とまかり通るようであれば、国民の政治に対する不信はますます増幅し、ひいては日本国全体の衰微に繋がることでしょう。政治家には襟を正していただき、国民は政治家を厳しく監視しなければいけないと思います。併せて、我が身にまなこを向ける時、私自身もこうした「虚仮不実」の心を持つ身であることを仏智に照らされて気づかせていただかなければいけないと思うや切であります。

 

  合掌 

2007.9.2 住職・本田眞哉・記》


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