法 話

(80)「老少不定(上)

我やさき、人やさき、

きょうともしらず、あすともしらず、

おくれさきだつ人は、

もとのしずく、

すえの露よりもしげしといえり。


大府市S・E氏提供

蓮如上人『白骨の御文』より

老少不定(上)

 

 ご門徒のご長男が逝去されました。享年36歳。日本人男性の平均寿命が80歳に垂んとしている今日、36歳は若すぎる。話を聞いた人誰しも異口同音にそうおっしゃいます。しかも病巣発見からわずか半年あまり。それより前に自覚症状はなかったのか、もう少し早く検診の機会があれば打つ手もあったであろうに…。どうして、どうして、と悔やまれます。

 ご両親の話によれば、原発は胆管だったようですが、発見時にはかなり転移が進んでいたようで、肺にまで達していたとか。セカンド・オピニオンも含めて複数の医療機関を訪ねて診ていただいたそうですが、オペも不可能ということで抗ガン剤と放射線治療で快癒に向けて手を尽くされたそうです。

その治療法も一時的には効果が見受けられたそうですが、根本治癒には及ばなかったとのこと。そこで、病院の指導とお世話によって、ターミナルケア(Terminal Care)の病床のある病院へ転院することになったとのことでした。

因みに、ターミナルケアとは、末期がんなどに罹患した患者に対する看護のこと。終末(期)医療、終末(期)ケアとも言います。 ターミナル(Terminal)は終着駅の意味であり、そこから人の終末期をいうようになったという説があります。ターミナルケアは、延命を主目的とするものではなく、身体的苦痛や精神的苦痛を軽減することによって、人生の質を向上することに主眼が置かれます。

したがって医療的処置に加え、精神的側面を重視した総合的な措置がとられます。ターミナルケアを専門に行う施設はホスピス(Hospice)とも呼ばれますが、Hospiceの原義は、霊地への巡礼者や旅行者を、小さな礼拝堂を持つ教会が泊めた巡礼教会(hospice)の意味が転用されたともいわれています。

さて、ご門徒のご長男、ターミナルケアのセクションのある病院へ転院されました。転院3日目に患者ご自身が「ここへ来てよかった」とおっしゃったそうです。ご家族の方々も「本当によかった」と口をそろえられます。「素晴らしい先生で、『何々させていただきます』といつもにこにこと語りかけ診ていただけ、看護師さんもやさしく丁寧にケアしてくださいました」と。

どこの病院かとお尋ねしたら、名古屋市南区にある「南生協病院」とのこと。インターネットで検索してみましたら、ありました。HPによりますと、内科、外科など11の診療科があり、その他に「緩和ケア病棟」があるようです。

その緩和ケア病棟の「診療方針」には次のように記されていました。

南生協病院の緩和ケア病棟は、

1.がんの辛い症状をコントロールするために

2.自宅で過ごしていたけれど家族が少し疲れてしまった場合の短期体験入院として

3.最期の限られた時間を穏やかに過ごすために大切な時間をよりよく生きる場所としてご利用ください。

ご長男は、間違いなく最期の限られた時間を穏やかに過ごし、大切な時間をよりよく生きられたと思います。短い人生ではあったでしょうが、最期に人間の本当の悦びを感じ取られたことでしょう。だらだらと不平不満の人生を生きるよりも、短くても本当の悦びを得た人生の方がいかに充実して尊いかということを、私たちに身を以てお教えていただいていると思います。

 《次号へ続く2007.11.3 住職・本田眞哉・記》

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