法 話

(83)「真と偽と仮(上)


真の言は

偽に対し、

仮に対するなり。


大府市S・E氏提供

親鸞聖人『教行信証』「信の巻」より

(しん)と偽(ぎ)と仮(け)(上)

 

 ここ一両年、「偽装」問題が新聞紙上を賑わし、テレビ報道等でたびたび取り上げられています。漢検が全国公募して決定した「2007年今年の漢字」は「偽」でした。ご存じのように、昨年は各種の「偽装」が社会問題となったためこの文字が当選?したとのこと。昨年末には、清水寺の森清範貫主が「偽」の大文字を墨痕鮮やかに揮毫しました。

 偽装の元祖は、姉歯建築設計士による耐震偽装ではなかったかと思います。以後、食肉や野菜の産地偽装、加工食品の原材料偽造等々が発覚しました。その後しばらく鳴りを潜めていたかに見えましたが、大手菓子メーカー「赤福」の偽装が明るみに出て、「赤福よお前もか…」といった感じ。

一方、日本料理の老舗中の老舗「吉兆」でも消費期限改ざんや産地の偽装表示が発覚。まさか、と耳を疑いたくなるような話ですが、これがホント。因みに、湯木貞一氏創業の「吉兆」は、現在五つの会社に分かれてその暖簾が受け継がれているようです。「吉兆各店舗ご案内」のホームページ(www.kitcho.com/tenpo_text.html)によりますと、その五社は、本吉兆・神戸吉兆・船場吉兆・教徒吉兆・東京吉兆。

私は、「吉兆」は一つの会社で、京都や大阪や東京等々に支店といいますか、営業拠点があるものだと思っていましたが大間違い。それぞれが独立した株式会社で、商品開発などもそれぞれ独自に行っているとのこと。ホームページについても事件への対応の差が歴然と現れています。

今回問題を起こしたのは船場吉兆ですが、本吉兆と東京吉兆のホームページには偽装問題については一文字も書かれていません。代表者である社長のお詫びの言葉も、経過の説明も一切ありません。非常にグレードの高いページ面に、店舗の写真や商品が何事もなかったように映し出され、通常の経営理念のコメントが自賛の弁よろしく紹介されています。別会社とはいえ、同じブランドを掲げる船場吉兆の不始末は全く他人事ですむのでしょうか。

さらに不可解なのは、一覧表に並ぶグループ五社のうち問題の船場吉兆の会社名には、自社のホームページに繋がるリンクが外されているのです。お詫びのコメントなりとも読めるのかなと思ったんですが、アクセスできず取り付く島もありません。こうした時こそ、営業ページを省いて、お詫びと今後の対応策を載せたホームページに出会えるようにすべきではないでしょうか。

そういった意味で評価できるのは京都吉兆と神戸吉兆のホームページ。特に京都吉兆の徳岡邦夫社長は、さすがメディアによく顔を出している料理人だけあって、誠意あるお詫びの言葉と、食の安全の問題に対する今後の取り組みについて詳細にコメントしています。真剣味あふれる好感度の高いブログ。

徳岡社長は、具体的な今後の取り組みとして、吉兆グループ全体による「食のコンプライアンス委員会」を設置するプランを披瀝しています。オール吉兆で定期的に委員会を開き、食の安全の問題について検討するとともに、新たに委員会のホームページを立ち上げて情報を公開するとのこと。

吉兆問題に深入りしてしまって、「偽」の論点がずれてしまいましたが、話を元に戻しましょう。いうまでもなく「偽」は「いつわり」「にせ」という意味で「真」に対する語。「虚偽」とも熟します。「真」はもちろん「ほんとう」「まこと」の意で、「虚偽」に対しては「真実」。

仏教、なかんずく親鸞聖人の教えにおいては「真」「偽」に加えて「仮()」が説かれます。真と偽と仮。親鸞聖人のライフ・ワーク『教行信証』の「信の巻」には「真の言は偽に対し、仮に対するなり」と記されています。   合掌

   《次号へ続く:2008.2.3 住職・本田眞哉・記》


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