法 話

(85)安心(あんじん)(上)


安心
(あんじん)

定意(じょうい)して

安楽に

(しょう)


大府市S・E氏提供

善導大師『般舟讃』より

安心(あんじん)(上)

 

最近テレビや新聞等で医療の問題がたびたび報道されています。例えば、体調不良を訴えて救急搬送を依頼した女性(89)が、近隣の30病院に相次いで受け入れを断られ、約2時間後に市外の病院に運ばれたがすでに死亡していたことが分かった。(大阪市富田林市)受け入れを断った理由は「ベッドに空きがない」とか「急患がいて対応できない」などだったという。

兵庫県姫路市の例では、66歳の男性が吐血するなどして搬送された際、姫路赤十字病院や国立病院機構姫路医療センターなど、18の病院が「専門医がいない」「ベッドがない」などの理由で受け入れを拒んでいたことが分かった。男性は当初意識があったが、受け入れ先の赤穂市民病院に搬送される途中で心肺が停止。同病院に到着した時にはすでに死亡していたとのこと。

また、産科不足も深刻で、分娩中に意識不明となり救急搬送を依頼したところ、19病院に断られた末遠隔の病院に受け入れられたが、後日死亡したという例も。産科医の不足からか、産科の診療を取りやめる病院が増えているようです。

産科のみならず、大きな病院の中には小児科・耳鼻咽喉科など診療科を大幅に減らしているところもあります。そのために患者数が減り経営がより厳しくなっているとの報道も。当町近隣の市でも、自治体病院と民間病院が統合して41から新しいスタートを切りました。この異例の統合も赤字経営から脱却するためとのこと。

こうした一連の問題の根本には一体何があるのでしょう。垣間見るところでは医師不足の問題があるようです。先日、私の友人で元公立病院長の医師の講演を聴く機会がありました。その先生が熱っぽく語られた日本の医療現場の抱える問題点、危機的状況についてまとめてみました。演題は「医療の崩壊」。

日本の医療の最大の問題点は、医師数が絶対的に不足しているということ。先生が示された資料によると、OECD加盟国の人口1,000人あたりの医師数では、日本は27位で2.0人。トップはギリシャの4.9人。次いでイタリアが4.2人、ドイツ3.4人、アメリカ2.4人、そしてイギリスが2.3人。日本はポルトガルやハンガリーより下位。

因みに、OECDの平均は3.1人。OECDの平均値まで充足するには、トータルで医師を14万人増やさなければならない。ドイツの水準まで引き上げるには18万人の医師の充足が必要という勘定。

女性医師の医師全体に対する割合に至っては、OECD加盟国中最下位で16.4%。順位トップはスロベニアの56.8%。イギリス、フランス、ドイツは37.737.6%。女性医師の小児科・産婦人科医師に占める割合は多いと思われますが、「小児科が足りない」「お産ができない」というニュースがたびたび報じられていますがむべなるかな。

厚生労働省のデータによれば、産婦人科の医療施設は2002年の6,3982005年には3,063に半減。小児科のある病院数も1994年の3,9382002年には3,3592004年には3,231へと減り続けています。

一方、病床100床あたりの医師数も先進各国に比べて極めて低い水準にあります。アメリカの63.9人、ドイツの36.5人に対して日本は12.0人。アメリカの5分の1、ドイツの3分の1しかありません。入院した時、医師や看護師に声をかけたくても忙しそうで声をかけられなかったという経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。合掌《次号へ続く》                        

   《2008.3.2 住職・本田眞哉・記》

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