法 話

(86)安心(あんじん)(下)


安心
(あんじん)

定意(じょうい)して

安楽に

(しょう)


大府市S・E氏提供

善導大師『般舟讃』より

安心(あんじん)(下)

 

そうした医師不足の中で、多くの勤務医は過酷な労働を強いられ、過労死寸前までに至っているとのこと。大阪府下の49病院によるアンケート調査結果では、病院勤務医の1週間あたりの平均超過勤務時間は16.8時間。20時間以上の超過勤務をしている医師は29.3%に上っていることが明らかに。週20時間以上の超過勤務は、厚生労働省の過労死基準を超えています。

また、病院勤務医には当直がありますが、当直あけの翌日も94.7%の医師が通常勤務に就いているとのこと。看護師のように「夜勤明け」は無いそうで、外科の先生などは夜勤明けの日でも手術を担当することがあるとか。大丈夫なのかな?と思われてなりません。

日本の医療界がこうした医師不足を頂点とする過酷な状況に陥ったキー・ポイントはどこにあるのでしょう。先生はズバリ、「国の医療費抑制策にあります」と。国は1983年以降、「医師が増えると医療費が増加する」という「医師過剰論」をふりまいて、医学部定員を減らしてきたのです。医療の専門分化と高齢者増加に対応するために医師養成に力を入れてきた欧米諸国に対して、日本は逆方向の政策をとってきたわけで、今に至ってその差が歴然と現れてきたのです。

では、日本の経済力・GDPは、国民が安心して頼れる医療費をまかなえないほどプアなのでしょうか。OECDの資料を見てみましょう。加盟国のGDP(国内総生産)に対する医療費の割合を国際比較した資料。(2004年のデータ)

アメリカは15.3%と飛び抜けて、トップ。次はスイスの11.6%。以下ドイツの10.9%、フランスの10.5%、アイスランドの10.2%と続きます。日本はなんと8.0%で21位。1998年のデータでは日本は7.5%で18位。6年間で日本のパーセンテージは0.5%上がったものの、順位は3ランク下がっています。

一方、その分母である日本のGDPは如何にと調べてみれば、何とアメリカに次いで世界第2位。ということは、日本の経済力ならば国家予算からもっと医療費に回すお金はあるはず。ところが実際は逆。国の医療費負担は減り続けています。企業の負担も減り続け、逆に家計の負担は増えてきています。国は国民健康保険への税金からの支出を抑え、個人が払う国民健康保険税は上がってきています。患者の窓口負担も増えています。

こうした日本の医療の危機的状況から抜け出すには国家予算の歳出を見直す必要がありましょう。日本の防衛費(軍事費)は4兆7千億円余で世界ランキング第2位。1隻1,400億円もするイージス艦や1台10億円の戦車の調達を少し減らして防衛費の1割をカットし、公共事業費6兆6千億円の1割をカットすれば1兆円が生み出せるはず。厚生労働省では、勤務医を1名増やすには年間8,000万円が必要であると計算しているようですので、1兆円あれば勤務医を12,500人増員することができる勘定になります。

この4月1日から実施された新しい「後期高齢者医療制度」も自己負担が増えるようですし、新たに自己負担しなければはずされる診療項目もあるとか。75歳以上の高齢者は何となく不安に駆られているようです。テレビ報道の中で、ある高齢者が新しい保険証を「姥捨て山行き通行手形」とかなんとか言っていましたが、この新制度、実体は高齢者医療費の国の負担縮減が目的のようで、安心して医者にかかれる制度ではないようです。

余談ながら、4月1日新しい制度施行初日に舛添厚生労働相が記者会見で、この制度のネーミングが余りよくないとして、「長寿医療制度」に変えるといきなり宣言。前期と後期の差別につながるとか、言い訳をいっていましたが、法律で決まった「後期高齢者」を思いつきで「長寿」に変えられるものでしょうか。はたまた、名前だけを変えても中身が問題だ、との声も。

さて、話を元へ戻しまして、日本の病院の3分の2は赤字経営とか。いずれ閉鎖に追い込まれるとなれば、地域住民は安心して診療を受けられる拠点を失うことになりましょう。でなくても、入院後2週間目で入院報酬が減額になり、そして3か月経つと治っても治らなくても?病院を追い出されて医療難民になるという現状。こんな冷たい仕打ちはもうご免。

日本の医療費のトータルは30兆円といわれています。例えが悪いかも知れませんが、パチンコ産業の30兆円と同じ。何か考えさせられる数字です。日本の医療の崩壊を何としてでも防がねばならないと思うや切であります。 合掌《完》                        

   《2008.4.1 住職・本田眞哉・記》

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