法 話

(90)お彼岸

爾時佛告(にじぶつごう)
 
長老舎利弗(ちょうろうしゃりほつ)
   
従是西方(じゅぜさいほう)
 
過十万億佛土(かじゅうまんおくぶつど)

  
有世界(うせかい)名曰極楽(みょうわつごくらく)


大府市S・E氏提供



『佛説阿彌陀経』より

 

お彼岸 

9月はお彼岸の月。「暑さ寒さも彼岸まで」と古来言い伝えられています。このところ異常気象と思われる状況がたびたび発生しているなか、このフレーズも間に合わなくなる時代が到来するかもしれません。今年もお盆までは最高気温が35℃~37℃の日が連続し、熱中症の心配ばかりしていました。

そして8月末の現在、今度はゲリラ豪雨。愛知県や関東地方で猛烈な豪雨が発生。岡崎市では時間雨量147㎜を記録。8年前にこの地方を襲った東海豪雨の時間雨量110㎜を遙かに超え過去最高を記録。やはり地球温暖化の影響でしょうか。識者によれば、日本付近はもうすでに亜熱帯化しているとか。

現在は雨にともなって気温が20℃台前半でかなり涼しい状況になっていますが、お彼岸前にはまた暑さがぶり返すことでしょう。お彼岸は921日~27日の一週間。その中日・23日が「お彼岸のお中日」。この日には各地で仏教行事が催され、マスコミ等にも取り上げられます。当山においても、この秋のお彼岸のお中日に毎年「永代経」の法要を勤修しています。

ところで、「お彼岸」の語源はどこにあるのでしょう。インド語(梵語・サンスクリット語)の「p()aramita()(パーラミタ)」から来ているのです。これを音写して漢字で書き表すと「波羅蜜(ハラミツ)」または「波羅蜜多(ハラミタ)」。そしてこれを訳すと「到彼岸(とうひがん)」。彼岸に到る。迷いの世界を渡り、悟りの世界に到るという意味です。

私たちの生きている世界を「此の岸(このきし)」というのに対して、阿弥陀如来の浄土の世界を「彼の岸(かのきし)」といいます。「此岸」に生きる私たちが、迷いの世界から浄土の悟りの世界、涅槃寂静の世界「彼岸」に到ることを願うご縁をいただくのが「お彼岸」であります。

春のお彼岸や秋のお彼岸には、お中日である春分の日や秋分の日を中心に、お寺参りやお墓参りをする風習が古くから人々の間に根づいております。源氏物語の時代からの風習のようですが、インドや中国では行われていない日本独自の伝統のようです。

お彼岸の時期は、気候的には暑くもなく寒くもなく、ちょうど中道の思想の仏教に通じる点があるともいわれます。また、天文学的にも春秋のお彼岸のお中日には、太陽が真東から昇り真西に沈むということから、西方浄土の思想に結びつくという説もあります。そう、お浄土・極楽世界は娑婆世界から西方十万億の国土を隔てたところにあると経典に記されています。

夕陽が西方浄土へ通じる道しるべとなって、お浄土に住む先祖や有縁の亡き人たちを思い起こし、命をいただいて生かされていることへの感謝の念が生じるとなれば、お彼岸はこの上ない素晴らしい仏縁となりましょう。

お彼岸は、一般的にはお墓参りをし、先祖供養をする仏教行事とされていますが、親鸞聖人の教えに育まれている私たちとしては、お彼岸には仏教行事を執り行う中でご先祖の遺徳を偲ぶとともに、亡き人をとおして自らを省みて浄土真実の教えに出会う勝縁としたいものです。

                 合掌

 

   《2008.9.1 住職・本田眞哉・記

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