法 話

(91)濁世の起悪造罪


濁世(じょくせ)の起悪造罪(きあくぞうざい)

   
暴風駛雨(ぼうふうしう)にことならず
 
諸仏これらをあわれみて

  
すすめて浄土に帰せしめり


大府市S・E氏提供



親鸞聖人作『浄土高僧和讃』より

 

濁世の起悪造罪

このところ政治・経済・社会情勢は激動しています。雑多な事故・事件・問題が渾然となって渦巻き、ゲリラ豪雨の土石流、濁流のように猛烈なスピードで駆け抜けていきます。濁流の中には、巨大な岩石あり、腐りかかった猛獣あり、建物や家具の廃材あり、紙くずの塊あり、のらりくらりと得体の知れない妖怪変化のたぐいあり…といった状態。

 ここわずか1か月間にマスコミのネタになった事案、余りに多すぎてビッグな事件も次々発生する問題にその影が薄れ、遠い過去の事件と錯覚してしまいがち。これって私だけでしょうか。一度時系列で振り返って具体的事案を整理してみましょう。

 まず9月の冒頭1日に福田総理大臣が突然辞意を表明。1年前の安倍総理大臣に続いて2回目の政権投げ出し。そしてそれを受けての自民党総裁選。その賑やかな総裁選の最中に発覚したのが三笠フーズを初めとする「事故米」「汚染米」問題。この問題は複雑な流通経路が明らかになったもの、未だ全容が解明されずマスコミも“続報中”。その間福田改造内閣で入閣した太田誠一農林水産大臣はこの問題について「農水省はじたばたしていない」などと発言してひんしゅくを買い辞任に追い込まれました。

 続いて表面化したのが中国製牛乳に混入した「メラミン」事件。被害は中国国内に留まらず、日本はもちろんアジアやヨーロッパにまで拡大。真相は、牛乳に水を混ぜて、文字通り水増しして量を増やし、そのためタンパク質成分が不足するのでメラミンを混入して見せかけのタンパク質を基準値にかさ上げしたという。全くひどい話。そうした牛乳で粉ミルクを製造して発売。中国国内では粉ミルクで5人が死亡し5万人が被害に遭っているという。またこうした乳製品を使って造られた菓子にまでその影響が及んでいます。

 9月中旬に至って今度はアメリカ発のショック・ウエーブ。アメリカ大手証券会社のリーマン・ブラザーズが915日破綻。最終的にはアメリカ政府が公的資金の注入を拒否したための倒産で金融業界は大パニック。しかし、この問題の端緒は以前から問題となっていたサブプライム問題で、アメリカの金融界の病巣は広く深い。

 アメリカ政府はこうした問題に対処するために議会に金融安定化法案を提出しましたが下院が否決。このショックは大きく29日のニューヨーク株式相場は777ドルの大暴落。これは史上最大の下げ幅とか。「アメリカがクシャミをすれば日本が風邪を引く」といわれていますがそのとおり、東京株式市場も大幅値下げ。このショック・ウエーブは日本のみならずアジア各国、ヨーロッパにまで波及。

 一方こうした嵐のさなか、自民党総裁選で麻生太郎氏が圧勝。924日国会で総理大臣に指名され、直ちに組閣に着手し麻生内閣が誕生。ところが、中山成彬国交相が「成田空港闘争はゴネ得」「日本は内向きな単一民族」「日本の教育がんが日教組」などと発言して物議を醸し辞任。在任5日間。103日伝えられるところによれば、中山氏は次期衆院選に立候補せず、今期限りで引退する意向とか。

 以上ここ1か月ほどの間に起きた主な事案を取り上げてみましたが、その中で私自身どうもすっきりしないのが「事故米」「汚染米」の問題。

 報道によりますと、日本政府は、ミニマムアクセスとか何とかいって年間77万トンもの輸入米を受け入れているとか。必要もないのに押し付けられているもののようですが、悪い米でも返すことができないとも。変な話。この輸入米を国は倉庫に保管しているのですが、その量たるや膨大なもの。しかも定温12℃で倉庫に保管しているということですからその倉敷料も膨大な金額でしょう。

 その保管米を放出したことが今回の問題の根底にあるわけですが、どう考えても不可解なことが多々あります。まずその輸入米は初めから「事故米」「汚染米」なのか。あるいは輸入当初は事故も汚染もなかったが、保管中に「事故米」「汚染米」になったのか。いずれにしても、「事故米」「汚染米」なので工業用として放出するのになぜ食用も扱う「フーズ」会社に売り渡すのか。

 それにも増して不可解なのは、輸入米が今何百万トンの累積在庫なっているか知りませんが、なぜ高い倉敷料を払って“備蓄”していなければならないのでしょう。なぜ早く放出しないのか不可思議。三笠フーズのコメントの中に、政府から頼まれて買ったとか言う意味合いのフレーズがあったように記憶していますが、政府はもっと積極的に販路拡大を図るべきではないでしょうか。

 さらに不可解なのは、農水省の検査官が96回にわたって三笠フーズに立ち入り検査をしていたにもかかわらず、不正が発見できなかったこと。その原因は、事前に検査情報をフーズ側に提供していたため。会社側は、検査までに砕米処理や袋の標示や書類等を偽装していたといわれています。いわばなれ合いの出来レース。おそらくフーズと検査官は癒着していて、お決まりの贈収賄のにおいがプンプン。

 次はコストの問題。工業用と食用では、単価には二桁倍率の差があると思われます。第一次買い取り業者から末端の菓子屋さんに至るまでの流通経路は実に複雑で未だその全容が解明されていません。中には伝票取引だけの場合もあるようですが、流通の間に工業用と食用との間のコストの差は徐々に縮められていったと想像されます。食用に転じたどこかの段階で、単価も一挙に引き上げ文字通り「うま味」を味わった業者もいたかも知れませんが-。

 でも、経験豊かな業者の中には、食用としてはちょっと安すぎる、この米はヤバイかなと手を引いた業者がいたかも知れません。一方、競争の激しい食品業界のこと、安い原材料があれば儲けが多くなると飛びついた業者がいたかも。

 以上「事故米」「汚染米」のことについて私が不可解と思うことを取り上げてきましたが、現在の日本の「食の安全」に関しては、共通する問題点があると思います。それは一口で言えば利益至上主義。

 消費者は、値段が安くてよい品物を求めます。供給側は、消費者のニーズに答えてよりよいものを、より安く提供しようと研究・開発を進めます。コスト計算の中には当然原材料の価格が大きな要素になりましょう。安い原材料の導入となれば、勢い目が国外に向きます。外国は日本に比べて人件費が低く他の経費も割安だから。したがって原材料は日本国内産より低価格、その原材料を使えば同じ価格で製品を売っても当然利益贈になるわけです。

今日本の食品業界はくつわを並べてこの利益至上主義の路線をつっ走っています。そしてそのツケが私たち消費者に回ってきました。メタミドボス肉まんしかり、毒入り餃子しかり、メラミン入り菓子しかり。しかも消費者は製品の原材料については確かめようがなく、疑惑・事件がマスコミで明るみに出て初めて知る始末。日本の食の安全のためには、地産地消とまではいかないまでも、食料の自給率を向上させなければいけないと思うや切であります。

                 合掌

 

   《2008.10.3 住職・本田眞哉・記

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