法 話

(92)青色青光(しょうしきしょうこう)

   青色青光(しょうしきしょうこう)
   黄色黄光(おう しき おう こう)
   赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)
   白色白光(びゃくしきびゃっこう)

大府市S・E氏提供

佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)』より

 

青色青光(しょうしきしょうこう)

 私こと、住職本田眞哉は3年ほど前より社会福祉法人「愛知育児院」の理事長職を仰せつかっています。私立大学法人の理事長、地元の町の教育委員等も勤めさせていただき、出身大学も教育系ということもあって教育畑は経験がありますが、福祉畑は初めてのことで未だに戸惑うことが多々あります。素人ながら勉強しつつその任に当たっています。

 愛知育児院の歴史は古く、いまから時代をさかのぼること120年、1886(明治19)年に産声をあげました。1886年といえば、日本で初めて内閣官制が制定され、伊藤博文初代総理大臣が就任した翌年。帝国憲法発布や東海道線開通より3年前、「鹿鳴館舞踏会」華やかなりしころ。

 そんな時代に、恵まれない子どもたちのために福祉施設設立を発願し、「私」を捨てて献身し偉業を成就された森井清八氏には、ただただ頭が下がる思い、脱帽の他ありません。爾来、森井氏の福祉にかける願いを受けて、奉仕精神の伝統が連綿と受け継ぎ伝えられてきていることは大変尊いことであります。

ところで「伝統」とは何なのでしょう。古くから伝えられてきたことを単に前世代から受け継ぎ、そのまま次世代へ伝えることではないと私は思います。前世代から受け継いだものを受け取り直して、言い換えれば受け継いだものにその時代の息吹を込めて次の世代へ伝えていくことが真の伝統であると思います。

そうした意味で愛知育児院の120年の歴史を検証してみますと、ズバリその通り。いわゆる「孤児院」として創設された愛知育児院は、明治・大正期は身よりのない子、恵まれない子たちを育成し、昭和期では太平洋戦争が生み出した不幸な子どもたちの拠となり、現在の児童養護施設「南山寮」に至っています。

1969(昭和44)年には、児童養護施設に加えて保育所・南山ルンビニー保育園を設置。地域社会の保育事業の一端を担うことになりました。そして1999(平成11)年4月には、時代の要請を受けて特別養護老人ホーム南山の郷、ケアハウス南山の郷を開設。さらに翌年4月には居宅介護支援事業所を立ち上げました。

こうした歴史は、「時機相応」の事業展開のもと発展を続けてきた愛知育児院の足跡そのものです。時代のニーズに応え、自らも変革しつつ、先人の遺業を礎として新たなる出発を積み重ねてきた姿といえましょう。伝統が受け取り直されて、新たな息吹を得て次の世代にバトンタッチされてきたのです。単に「受け継ぎ伝える」のではなく、「受け取り直して」伝えるという、「伝統」本来の意義が、ここに具現化されていると言っても過言ではありますまい。

一方、愛知育児院120年の歴史を終始一貫している不易なものがあります。それは創立の基本理念「仏教福祉」です。そしてそのキーワードは仏教精神に基づく「いのちの輝き」。「いのちの輝き」が内包する意味は実に深遠広大ですが、その意味するところを仏典に尋ねますと、次の聖句からその一端を学ばせていただけるのではないかと思います。

青色青光(しょうしきしょうこう)

黄色黄光(おう しき おう こう)

赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)

白色白光(びゃくしきびゃっこう)

これは佛説阿彌陀經(ぶっせつあみだきょう)』の一節ですが、「青色は青い光を放ち、黄色は黄色の光を出し、赤色は赤く輝き、白色は白く光る」といった意味。それぞれが、それぞれ。それぞれのいのちが、それぞれに輝いているということです。

青色(の人)は黄色(の人)の存在を認め、黄色(の人)は青色(の人)の青い光を尊重する。赤色(の人)は、白色(の人)に赤い光を出すように強要したり、白色(の人)が赤い光の存在をネグレクトしたりしてはいけない…とお教えいただくのです。

こうしたことは、近くは家庭内から近隣社会、国家に至るまで人と人の間、すなわち「人間」集団のなかで欠くべからざるものです。もちろん愛知育児院のあらゆる事業活動においても強く求められる基本理念です。

利用者へサービスを提供する場合はもちろん、職員と職員の間、あるいは入所者集団の調整場面等においても忘れてはならないテーマです。互いに違いを認め合い、尊重し合って、思いやりの精神を基調とした業務を推進し、本法人の特色を発揮していきたいものです。

こうした理念をモットーに、120年余に亘って活動を続けてきた奉仕集団「愛知育児院」が先ほど全国表彰の栄に浴しました。去る10月6日、東京・新霞ヶ関ビル灘尾ホールで開かれた全国社会福祉協議会設立100周年記念感謝の集い「記念式典」の席上において、天皇皇后両陛下ご臨席のもと特別表彰を受賞しました。私も社会福祉法人「愛知育児院」の代表として招かれ出席しました。

記念式典は午後3時開式。国歌斉唱、開式の辞に続き、全国社会福祉協議会の斎藤十朗会長の式辞。そのあと表彰状贈呈・感謝状贈呈と次第は進み、「天皇陛下のおことば」。長期に亘り社会福祉事業に尽くした団体・個人に対して労いのおことばを述べられました。全国社会福祉協議会の前身である中央慈善会設立当初会員の中では、わが愛知育児院を含めて全国で40法人が特別表彰を受賞。

奉仕団体でスタートしたわが法人も、今や社会福祉行政のメカニズムに組み込まれ、運営・活動・財政ともに大変厳しい環境の中に置かれています。特に財政面では過去2回、国の介護報酬が改訂されるたびに厳しさを増しています。次回の改訂では3%増額されるとか報道されていますが、果たして…。いずれにしても、わが法人としては「仏教福祉」基本理念として、入所者・利用者に満足していただける暖かいサービスを提供していく他はありません。

合掌

 《2008.11.3 住職・本田眞哉・記》

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