法 話

(95)かつ消えかつ結び


行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。

よどみに浮ぶうたかたは、

かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

  

大府市S・E氏提供

鴨長明『方丈記(ほうじょうき)より

  

 アメリカのサブプライム・ローンに端を発した金融危機はまたたく間に全世界に波及し、今や、世界経済は「百年に一度」の危機的状態に陥っています。昨年後半からのわずか半年でなぜ景気が“墜落”したのか、経済音痴の私にはどう考えても理解できません。世界の経済構造というものがどうしてこんなにもろいのか…。

 例えば、過去最高の生産台数を誇った自動車メーカーが一気に2割~3割の減産に追い込まれる。ということは売れなくなっている…。テレビもデジタルカメラも家電製品も軒並み売れ行き不振、減産へ。減産となれば作る人はいらない、クビ切りへ。人減らしはまず非正規労働者。さらに正規社員もクビを切られるところも。残業が減り、クビ切りが進めば収入が減り需要がしぼむ。モノが売れなくなれば減産、減産となれば人減らしの悪循環。

 と、まあこれが昨年秋から現在までに、テレビ・新聞等の報道から私が得た情報ですが、なぜ飛行機が墜落するように世界経済が一気に悪化したのか私には合点がいきません。需要が満たされ徐々に売れ行きが落ちるとか、ジワジワと不景気の波が押し寄せてきて徐々に個人消費が減少するということならば話はわかりますが…。

 大手自動車メーカーや大手電機メーカーの3月期決算では2,000億円~3,000億円の赤字が見込まれるとのこと。昨冬来何回か見直しが行われましたが、見直しのたびに赤字幅は拡大。ある会社では、当初見込んだ黒字額と現在見込まれる赤字額の幅がなんと6,000億円超にも及ぶとか。

 こうした数字は、私たちの日常生活の経済の金額とはかけ離れていて実感がわかないと同時に、幾分過剰反応の面もあるのではなかろうかと思いますが、とにかく大変な事態に陥っていることは間違いない事実です。これにともなって、人員削減も会社によっては3,000人、6,000人、10,000人という膨大な数が伝えられ、大きな社会問題となっています。

 こうした事態が発生した根本にはいったい何があるのでしょう。素人の私の独断と偏見が許されるならば、今やグローバル・スタンダードとなっている自由競争・市場重視・利益至上のシステムそのものに問題の根本があるのではなかろうかと思います。そして、そうした理念を側面的にサポートする規制緩和の方策の問題。

 企業破綻の危機に瀕しているアメリカ最大の自動車メーカーGMは、高額なSUVの販売を拡大するために、購入者が簡単に組めるローンを設定したといわれます。記入箇所は5箇所。氏名・住所・生年月日・職業と正式名は失念しましたが個人認識番号。収入金額や支払い能力などを書く欄はなかったといいます。要するに信用保証の条件の緩やかなローンだったようです。極端な話、空瓶集めをしていた人でもローンが組めたとか。GMの信販子会社GMACがその債券を証券化して金融市場に売り出していたのです。いわばサブプライム・ローンの自動車版。

これも過酷な自由競争が編み出した販売戦略なのでしょう。そこへ金融危機が到来し、債権の回収が不能に。消費者は購入した車両を取り上げられ、レッカー車で自分の車が運ばれていく車を見守るだけ。ごく最近のテレビニュースで報道されていました。

そもそも債権が商品になるなどということは、私たちの年代の者では理解しがたいところ。借りたお金は必ず返す、というのが常識。貸した金を取り立てる権利が商品となって転売されるということは私たちの常識とは乖離していると思われてなりません。

もう一つ不可解なことがあります。それは自由競争、市場経済、規制緩和を掲げながら、民間企業への財政援助。一般市民も被害を受ける金融機関への公的資金注入は理解できないこともありませんが、一般企業への税金投入はいかがなものでしょうか。もしその企業が再生できなくて破綻してしまったら、注入した資金は回収できるのでしょうか。

もちろんその企業活動には大幅な公的関与が行われるでしょう。となると、市場主義、規制緩和の理念に相反することになるかと思いますが…。アメリカのオバマ新大統領は、アメリカの経済再生のために民間企業に対して数百兆円相当の財政援助をする予定とか。日本政府も09年度中に数千億円の公的資金を一般事業会社に注入すると報道されています。

金融危機に対応した緊急避難的な措置と位置づけているようですが、投入先が経営破綻して資金が回収できなくなった場合は、政府が穴埋めするという。結果的にはその会社に税金がつぎ込まれ、ツケは国民が負担することに。資金注入先の選別で変な力が働かないかと、これまた心配。

このようにみてくると、自由競争・市場第一・利益至上主義の従来型経済がある意味で行き詰まりに直面しているのではないかと思われてなりません。企業が自由競争に勝つために、あるいはマーケットのニーズに迎合して奇策を弄し、あるいは規制緩和を求め、なりふり構わず行け行けドンドンと突き進んだツケが一気に回ってきたのでしょう。「史上最高の利益」とうそぶく決算から1年も経たずして…。

グローバル資本主義経済が今や再点検を迫られているのではないでしょうか。あの中谷巌一橋大学名誉教授が懺悔しているように。

《2009.2.1 住職・本田眞哉・記》

  
 

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