法 話

(98)「真宗の仏事(下)

(それがし)、親鸞(しんらん)

閉眼せば

賀茂川にいれて

魚にあたふべし。
  

大府市S・E氏提供

覚如上人『改邪鈔(かいじゃしょう)より

  

 《前号より続く》

 真宗では、亡くなられた方について「あの世へ行った」とか、ましてや「天国へ行った」などとは申しません。再三記しておりますように、亡くなられた方は浄土へ往かれて仏になっていらっしゃるのですから。そうするとお名前も変わります。「俗名」から「法名」に変わります。他の多くの宗派では「戒名」と呼びますが、これは「受戒」していただく名前。わが真宗においては、親鸞聖人の教えに照らして「受戒」は無く、「帰敬式(ききょうしき--=おかみそり)」を受けて仏法のお名前「法名」をいただきます。

 法名は、生前に「帰敬式」を受式していただくことができます。と言うよりは、生前にいただくのが本来の姿です。いただいた法名を「存生法名」とか「存命法名」とか呼びます。ただ、生前に法名をいただかなくて亡くなった方には、手次の寺の住職からいただくことができます。当地方では、亡くなられるとすぐに住職がお伺いして「枕経」をお勤めします。そして枕辺で「おかみそり」をします。本来「おかみそり」は門首が執り行う儀式ですが、手次の寺の住職が代行できることになっています。そのあと住職はその方に法名を付けます。

 真宗の法名の最初には、必ず「釋」の一字が付きます。何の釋かといえば、釋尊の釋、お釋迦(おしゃか)さまの釋。お釋迦さまの弟子になったという意味。そしてその次に女性の場合は「尼」の一文字が入って、最後の二文字が受式者その人固有の法名になります。この二文字、昔は法語が重用されましたが、最近は俗名(戸籍上の名)の一字と法語を組み合わせるケースが増えています。

 そうしていただいた法名、亡くなったあとどのように安置するか。これも真宗の仏事の大事な一点です。他宗派においては、四十九日の忌明けまでに金泥文字か彫り文字で戒名を記した漆塗りの位牌を調整して仏壇内に安置します。位牌一基に夫婦ペアで記銘する場合もありますし、一人ずつ単体で作る場合もあるようです。真宗においては法名軸を調整してお仏壇(お内仏)内に掛けて安置します。しかし、最近はお仏壇がコンパクトになり、法名軸を掛けづらいことから、特にこの地方では扱い勝手のよい「繰り出し位牌」を使用するケースが増えています。止むを得ないことでしょう。

 そうそう、お仏壇の話になりましたが、これまた真宗独特のお仏壇をお給仕する作法があります。まず、仏壇の中で一番大切なご本尊は阿弥陀如来です。阿弥陀如来一仏です。釈迦如来とか観音菩薩とかを本尊にすることはありません。南無阿弥陀仏を絵像またはお木造で表したご本尊が一般的です。仏壇正面中央の阿弥陀如来の向かって右側には「帰命尽十方無碍光如来」と記した掛け軸(十字名号)を掛けます。そして左側には「南無不可思議光如来」の掛け軸(九字名号)をお掛けします。

 それからお仏壇の中のお供えですが、毎日必ずお供えするのは「お仏供(おぶく)・お仏飯(おぶっぱん)」。日本人の昔からの主食であるご飯をお供えします。仏飯器という専用の器具にご飯を盛ります。円筒形でピストン方式の用具「盛槽(もっそう)」を用いて盛ります。したがって、できあがったお仏飯の形は円柱形になります。しゃもじで仏飯器にご飯を山盛りにするやり方は、わが宗派では正式な作法ではありません。なお、お供えとお控えのタイミングですが、朝お供えしてお昼にお控えするのが原則です。とはいえ、お仏飯をお控えするためにわざわざ会社から帰宅する必要はありません。夕方帰宅してからお控えすればよろしいでしょう。

 燃香(ねんこう)についてもよく質問を受けますが、わが宗派の作法は他の多くの宗派の作法とは異なっています。長いままの線香に火を付けて香炉の灰に立てるのが一般的のようです。テレビ・ドラマなどで見かける姿は必ずと言っていいほどこのスタイル。しかもその本数に何か意味づけがあるようですが、わが真宗においてはどんな場合も立てません。お仏壇の下壇の前卓(まえじょく)中央に置かれている土香炉に、適当な長さに折った数本すべてに火を付けて香炉の灰の上に寝かせて燃香します。本数に決まりはありません。焼香については、平生はしないのが正しい作法。年忌法要等で焼香する場合は、上壇上卓(うわじょく)の金香炉に着火した香炭を入れて五種香または沈香(じんこう)等を焼香します

 真宗のお給仕作法では、お仏壇の中にコップや湯飲みでお水やお茶をお供えしません。水はお供えしますが、コップや湯飲みを使いません。これまたユニークな作法。上卓の前より左右両端に華瓶(けびょう)という仏具がおかざりされています。小さな花びんのように見えますが、もともとこれは水をお供えしたもの。この華瓶に水を注いでお供えしますが、花は挿しません。挿すならば樒か青木。樒は水を腐らせない作用があるためとか言い伝えられています。

 もう一つ大事なことがありました。それは打敷(うちしき)について。打敷は、お仏壇の上卓と前卓に掛ける三角形の飾り布と言ったらよろしいか、これは平生には用いません。報恩講、年忌法要、お盆、お彼岸、正月などの時に掛けます。私たちの衣服と同じように、季節に合わせて夏用・冬用を使い分けたらよろしいかと…。いずれにしても年中掛けっぱなしはよろしくありません。

 まだ他にも書き落とした点があるかと思いますが、この辺で筆を置くこととしましょう。とにかく真宗門徒の仏事作法は、真宗の教えに則った正しいものでありたいものです。真宗の仏事作法の根底には親鸞聖人の教えがあるのです。鎌倉時代に聖人が幾多の求道遍歴の末に開顕された本願念仏の教えは、当時の仏教界・一般社会からは異端視され迫害を受けました。そうした教えに基づいた仏事作法に、他宗派の作法と異なる点が多々あったとしても当然といえましょう。私たち真宗門徒はこの仏事作法の伝統を次の世代に正しく伝承していかなければならないと思うや切であります。

  合掌

《次号へ続く:2009.5.2 住職・本田眞哉・記》

  
 

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