研修紀行 Ⅸ

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アジア文化交流センター08夏の研修 ──

 
ヨーロッパに“アジア”を訪ねる旅 Part Ⅲ

  
パリの中心地で日本の古民家と出会い

        ベルギー・オランダの文化遺産を訪ねて⑩   

  
    
 

●「フランダースの犬」ゆかりのノートル・ダム大聖堂

8月25日朝、快晴。ヨーロッパへ来てからずーっと雨模様の曇り空ばかりでした。からっと晴れたのは今朝が初めて。きのう見た町の景観ががらっと変わって見えます。特に青空を背景に朝日に照らされて浮かぶ教会の塔は格別。きょうの予定は、これからアントワープへ向かい市内見学・昼食、その後風車群のあるキンデルダイクに立ち寄ってアムステルダムへ。

バスは旧市街を抜けて高速道路へ。ベルギーの高速道路は素晴らしい。路面もさることながら、中央分離帯に設けられた道路灯。暖色のナトリウム灯が切れ目無く続いており、しかも灯間距離が短い。宇宙船からもこの道路灯によってベルギーの位置が確認できるとか。ホントかな?くだらぬことを考えている間にバスはアントワープに到着。時計の針は午前10時を指していました。アントワープは港湾都市。賑やかになったのは16世紀からで、それまではブルージュの港が主役でした。そのブルージュの港が土砂で埋まってしまって使いものにならなくなって、アントワープがそれに代わったのだそうです。

ここでも街の中心はマルクト広場。広場にはご多分に漏れず市役所とギルドハウス、そして彫像のモニュメント。そそくさと見学して、やはり何といってもアントワープの目玉はノートル・ダム大聖堂。とりわけ日本人がこだわるのは教会に掲げられているルーベンスの絵画。そのよって来たるところは何かといえば、ご存じ「フランダースの犬」。ありました、ありました、教会の真正面の広場に黒御影石のモニュメントが。

フラットな石の台といった感じで、やや薄ぼけたネロ少年とパトラッシュの写真がはめ込まれ、日本語が彫られています。寝ころんだり腰掛けたりするのにちょうどよいのか、その時も現地のおじさんがネロ少年を尻の下に敷いていました。そのモニュメントの手前には、スポンサーの名が刻まれた、やはり黒御影石の逆三角形のプレートが石畳にはめ込まれていました。2003年にこのモニュメントは贈呈されたようで、最後に「GIFT VAN TOYOTA」の文字が見えました。

しかしこの段階ではネロ少年に関わる話はまだプロローグ。本論は大聖堂の中。大聖堂というだけあって中は広く高い。この教会にはルーベンスの描いた絵が4枚あるとガイドの吉岡氏。まずは中央祭壇に向かって左側の絵。キリストが十字架にかけられる姿を描いた「キリストの昇架」の絵。ルネッサンスの影響を色濃く宿す明るい色調でダイナミックに描かれているのが特徴とか。そういわれてじっくり見ると、筋肉の盛り上がりやキリストの表情など凄い表現。

この「キリストの昇架」と対になる絵が反対側、正面向かって右側に掲げられています。それは「キリストの降架」。十字架に架けられたキリストに刑が施行され、十字架から降ろされる場面を描いた作品。キリストの死によって嘆き悲しむ人々の心を表すかのように、深く落ち着いたトーンと均衡の取れた構図で描かれています。クリスマスの夜に忍び込んだこの教会で、ネロとパトラッシュが美しい絵を見上げ、そのまま天国へ召されたという。ネロ少年があこがれ続けたルーベンスの最高傑作「キリストの降架」は凄い迫力でした。


●アントワープから風車群のキンデルダイクへ

ただ惜しかったのは、修復のためとはいえ工事の騒音がひどかったこと。教会内ということで抑え気味のこともあって、グラインダーやハンマーの音に遮られてガイド氏の声が聞き取りづらく残念でした。工事といえばこの大聖堂、170年ほどかけて工事を続け、一応1521年に完成。ところが実際は未完成。170年かけても未完成。「上を見上げてください」とガイドの吉岡氏。そう、塔が一つしかない。向かって左側にはあるあるけれど右側にはありません。

団員一同ルーベンスの絵の重さの余韻を噛みしめながら教会を後にしました。バスはオランダのキンデルダイクへ向けてひた走ります。1時間半ほどでオランダを代表する風車のメッカに到着。バス・プールから2㎞ほどありましょうか、運河の堤防道路を歩いて世界遺産の風車群を目指します。風を受けて回っている風車もあれば、素知らぬ顔でデンとしている風車もあり、様々。

運河対岸に公開している風車塔があったので見学することに。もちろん入場料が必要。日本円に換算すると1人あたり約440円。何せ当時のレートは、1ユーロが170円ほどでしたからね。中に入るとゴーゴー、ゴーゴーともの凄い音。風車塔の基底部分は半径5m以上あるようで、塔内はかなり広い。目の前で直径3mもありましょうか大きな木製の歯車がきしみながら回転しています。

狭くて急な階段を3階まで登って行くと、塔の中心に五重塔の芯柱のような50㎝角の木製のメインシャフトがぐるぐる回っていて圧倒されました。風車で得た回転力を下の歯車に伝えるのでしょう。子どものころから低地オランダでは排水に風車が活用されていると教えられてきましたが、今その実物を目の当たりにして規模・構造とも想像以上のスケールであることが分かって、な~るほど。

バスはキンデルダイクからアムステルダムに向けてハイ・ウエイを疾走。女性ドライバー・エリスさん頑張っています。アムステルダムに近づくにつれて高速道路は混雑の度を増してきました。片側5車線に車がひしめき合っている感じ。それでも夕刻6時過ぎ、アムステルダム中央駅真ん前のヴィクトリアホテルに安着。


 《次号へ続く/2009.6.2 本田眞哉・記》


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