■研修紀行 U

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アジア文化交流センター01夏の研修──

  ホーチミンシティーとカンボジア
     アンコール遺跡踏査研修紀行(3)



 ●ベトナム戦禍を目の当たりに

 一夜あけて8月25日(土)。午前中はホーチミン市内観光。まずは統一
会堂(旧大統領官邸)。広大な敷地に建つどっしりとした建物。それも
そのはず、旧南ベトナム政権時代の独立宮殿であり、ベトナム戦争当時
はゴ・ディン・ジエム政権とアメリカ軍の作戦本部でもあったところで
す。その証拠には、地階は厚さ50cmもあるコンクリートで造られており、
迷路が入り組んだ要塞。最上階には大統領家族の居住スペースがあり、
プライベート・チャペルも。ベトナム人はほとんど仏教徒だと思ってい
ましたが、ゴ・ディン・ジエム大統領はカトリック教徒だったのです。
なるほど、それで仏教界との対立があったのかな。


         
  ▲統一会堂

 屋上に上ってヘリポートを見たとき、あのドキュメンタリー・フィル
ムの1シーンが思い出されました。1975年4月30日のサイゴン陥落直前の
こと。飛び立つヘリコプターに我先に乗り込もうと、鈴なりにぶら下が
ってパニック状態を呈していた状況が、私の脳裡に鮮明に甦りました。
彼らはアメリカ人の引き揚げに便乗して、ヘリコプターで沖に展開する
アメリカ艦船に逃れ、さらにはアメリカに亡命しようとしたのでしょう。
門の脇には、4月30日"無血入城"を果たした解放戦線の戦車2両が置かれて
いました。

 何となく胸を締め付けられるような思いを残して次の見学地「戦争犯罪
博物館」へ。こちらはさらにショッキングでした。ベトナム戦争当時の残
虐行為や悲惨な爪痕の数々が展示されていました。ナパーム弾や火器、戦
車、戦闘機などの展示品にはあまり驚くこともありませんでしたが、枯れ
葉剤の影響で奇形になった胎児のホルマリン漬けや大虐殺の写真を見て大
ショック。日本人カメラマン故澤田教一氏のあの有名な写真も展示されて
いました。

 別棟の捕虜収容所の跡らしきところには、拷問器具やギロチンの実物も
あり、身の毛がよだち鳥肌になりました。時の経つのも忘れて見入ったあ
と、我に返ると身体の重いこと。戦争は悲惨だ、二度と繰り返してはなら
ない、そんな思いに駆られつつバスに乗り込みました。

 ●ティック・チ・クアン胡志明市仏教会長を
           印光
(アンクアン)寺に訪問・交流
  
 
レストランで昼食をすませ、午後は今回の研修の主目的の一つであるベ
トナム仏教会との交流です。最初の訪問は印光寺(Chua An Quang)。アポイ
ントメントの午後2時少し前に到着。印光寺はベトナム・ホーチミン(旧サ
イゴン)市10区の町中にありました。あまり広くない境内に鉄筋コンクリー
ト2階建ての建物が建っていて、1階が応接室で2階が本堂。境内には参詣者
も多く、読経の声も聞こえ賑やかで活気に満ちていました。

 まず1階の応接室で、住職の釋智廣
(ティックチクァン)(Thich Tri Quang)老
師をはじめ僧侶方出席のもと、私たちのレセプションが開かれました。ア
ジア文化交流センターを代表して、団長の私から訪問の趣旨とお礼の言葉
を述べさせていただきました。続いて黄衣に身を包んだ釋智廣老師から歓
迎のご挨拶がありました。ホーチミン市仏教会長を務める老師は、柔和な
顔つきに優しい言葉「和顔愛語
(わげんあいご)」の温厚なお人柄とお見受けし
ました。が、ある情報通によれば、老師はホーチミン市の仏教界のみなら
ず社会・経済面でも、これからのリーダーシップが期待されているキーマ
ンだそうです。立正大学に留学経験があり、日本語も堪能。


     
▲釋智廣老師にお土産を贈る団長

 机上の果ものや飲みものをいただきながら、日越両国の宗教活動につい
て情報交換。寺のあり方についての質疑応答の中で、日本が宗教法人組織
であるのに対して、ベトナムでは市の委員会の組織に位置づけられている
とか、基本的なシステム面での違いもわかりました。ここで詳細に触れる
余裕はありませんが、大変有意義な交流学習ができました。最後にアジア
文化交流センターからお布施やおみやげを呈上し、印光寺ご住職からは本
を頂戴し交流会を終了。


        
▲本堂で記念撮影

 そのあと2階の本堂へ上がって勤行をさせていただきました。ネオンサイ
ンの光背輝く本尊さまの前でパーリ文の「三帰依
(さんきえ)」と「嘆仏偈(た
んぶつげ)
」を一同唱和。本堂はきれいに荘厳(しょうごん)され、いかにも南方
仏教を象徴するかのような明るい雰囲気。最後に失礼ながら本尊さまにお
尻を向けて記念撮影。智廣老師に歓待のお礼を述べ別れを告げました。
                        
      合掌
            
      【To be continued. Written by S,HONDA】


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