■研修紀行 U

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アジア文化交流センター01夏の研修──

  ホーチミンシティーとカンボジア
     アンコール遺跡踏査研修紀行(6)



 ●伸縮するトンレサップ湖

ベトナム航空シェムリアップ行きVN827便はオン・タイムで離陸。今回
のスケジュールでは、カンボジア入りは首都プノンペンからでなく、ア
ンコール遺跡最寄りのシェムリアップ空港から。シェムリアップはトン
レサップ湖の近くにある人口80万人の都市。着陸態勢に入るころ湖周辺
がよく見えてきました。あれッ?湖の中に木がある、田圃の畦もある!
よくよく見ても湖と陸の境が分かりません。あぁそうなんだ、いまは雨
期なんだ。

いつかNHKテレビのドキュメンタリー番組で放送していたのを思い出し
ました。トンレサップ湖の水面積は、雨期には乾期の3倍になるとか。因
みに乾期の面積は3,000平方キロメートル、琵琶湖の4.5倍。それが雨期
には10,000平方キロメートルに拡大するという。なんと愛知県の面積の
2倍。では、なぜそうなるのでしょう。それはメコン川のせいです。

世界有数の大河メコンは、全長4,200km。そのうち486kmがカンボジア
領内を縦断。増水期の流量は渇水期の20倍に膨れ上がるといわれていま
す。それが一気にメコン・デルタ(ベトナム)から南シナ海に流れ出るこ
とができず、プノンペンの合流点からトンレサップ川を100km以上逆流し
てトンレサップ湖を増水させるということなのです。


         ▲トンレサップ湖とメコン川

 日本ほど治水・灌漑が進んでいる国は他に比類を見ないと思いますが、
カンボジアのような流れ放題の川というのもまたおおらかでよろしいん
じゃないですか。毎年定期的に湿地や浸水林を潤し、平野部の田畑に豊
富な水を供給し、魚を育み、自然の恩恵をもたらすメコン川の“洪水”
とトンレサップ湖の“伸縮”。乾期には高床式住宅を拠点に漁をし、雨
期には住宅をたたんで高台に移るというテレビ番組のひとコマを思い出
しました。人々は湖の自然との共同生活をしているのです。

さて、わが乗機VN827便は予定通り12時45分シェムリアップ空港にラン
ディング。何もない空港。草原の中に滑走路1本といった感じ。ほどなく
ターミナル・ビルの前のエプロンに到着。タラップを降りてターミナル
・ビルに向かって歩き始める。あれッ、32年前と同じだ。小さな空港ビ
ルも、歩を運ぶ動作も。全くといっていいほど同じ感じ。32年前を彷彿
とさせる光景がそこに展開されました。懐かしさに感動し、胸がふるえ
る思いがしました。

強いていうならば一つだけ違いがありました。それはビルからエプロ
ンへ向けたトランペット・スピーカーからのアナウンス。「……カンボ
ジー…」女性の声がいまでも鮮明に甦ってきます。でも、今回はありま
せんでした。心配していたイミグレもカスタムも割と簡単にパス。ベト
ナムへの入国審査とは雲泥の差。

 ●超豪華「ソフィテル・ロイヤル・アンコール」ホテル

いずれにしても、研修の最大目的アンコール遺跡の地に足を踏み入れ
ることができ、感激。早速きょうは仏教遺跡アンコール・トムのバイヨ
ン寺院の研修踏査。さあ、行くぞ!「まぁまぁ、そんなに気負い込まな
いで。ガイドさんの説明を聞きなさい」と声なき声。現地ガイドはケリ
アさん。美人。おや、日本人女性スタッフも乗っています。JHCアンコ
ール・ツアーの林さん。

走り出したバスの中で、カンボジアのこと、通貨のこと、治安のこと、
チップのこと、時差のこと、飲み水のことetc.いわゆる基礎情報をお聞
かせいただきました。そして、「まずホテルに行きましょう」とのこと。
ホテルは「ソフィテル・ロイヤル・アンコール」。市街地の北の端にあ
り、アンコール・ワットに最も近いロケーション。着いてビックリ、新
築ピカピカの超豪華ホテル。シェムリアップ市内にある10余のホテルの
中で最高最新。たまげました。

私が前回カンボジアを訪れたのは1969年。その翌年ロン・ノルによる
クーデターが勃発。以来21年間に及ぶ内戦・混乱を経て、1991年のパリ
和平協定からわずか10年、こんなにすばらしいホテルに滞在できるなん
て夢にも思いませんでした。チェック・インして客室へ。メイン・ロビ
ーから客室までは庭園の中の渡り廊下を100m。バリ島の高級リゾート
・ホテルを思い出しました。


         ▲渡り廊下より中庭を臨む

客室も凄い。日本のホテルにも負けない調度品と設備。スリッパはも
ちろん、バスローブから寝間着まで用意されていました。冷蔵庫にカラ
ー・テレビ、ヘア・ドライヤーから室内金庫、アイロンとアイロン台に
至るまで完備。備え付けのビニール・サンダルは不潔だからスリッパを
持っていったほうがよいとか、蚊取り線香か虫除けが必要とか、停電に
備えて懐中電灯を用意して…とか、ガイド・ブックの注意書きにありま
したが、このホテルではすべて空振り。

ひと休みして午後2時、いよいよアンコール・トムのバイヨン寺院往
詣に出発。雨具を忘れずに。普通、太陽光線の関係でアンコール・トム
は午前、アンコール・ワットは午後訪問するのがよいとされています
が、仏教遺跡を最初に、という私のこだわりから初日の午後になりまし
た。ホテルからアンコール・ワットの南端までは約3km、アンコール・
トムの南大門までは約6km。
                        合掌。
            
    【To be continued. Written by S,HONDA】


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