●「渝州」に見る自動車事情
8月24日(土)重慶の朝。空はどんよりとして、曇っているのかガスって
いるのか、何となく空気が思い感じ。そうそう、重慶は「霧の町」の異
名を取るという。ホテル15階の部屋から窓外を見ると、高層ビルの谷間
にゴチャゴチャと古いアパートがひしめきあっています。文字通り再開
発の谷間。
投宿したホテルは「ハーバープラザ」。漢名は「重慶海逸酒店」。市
の中心部・渝中区五一路にあり、23階建てで五つ星の最高級ホテル。こ
の渝中区の「渝」は「渝州」の「渝」。重慶はまたの名を「渝州」とい
います。隋・唐・宋の時代に、この地域を渝州と呼んだことに由来する
とのこと。
▲渝中区五一路界隈
重慶は、長江と嘉陵江の合流点に位置しています。川の合流点では、
よく氾濫が起きるといわれています。漢和辞典を紐解いてみますと、
「渝」には「あふれる」という意味があると記されています。川の水が
よくあふれるところなので、この地を「渝州」といったのではなかろう
か、と。ただし、この項、私の推測。
話を元へ戻して、そう、「渝中区」というのは、渝州すなわち重慶の
中心部ということを意味しているのでしょう。昨夕、専用バスが空港か
ら江北地区を経て市中心部に近づくにつれて、自動車の洪水に遭遇しま
した。嘉陵江を渡る橋の部分がネックとなって猛烈な車の渋滞。中国の
車事情も大都市では“世界並み”になってまいりました。
ところが、ここ重慶での渋滞は、タダではすまない部分があるようで
す。つい先日までは、タクシーで嘉陵江を渡って市中心部へ入るには、
乗客が5元(約70円)を負担しなければならなかったそうです。因みに、
重慶のタクシー料金は3kmまで5元とか。そこから割り出すと、川を渡る
のに5元は高いのでしょうか、安いのでしょうか。
いずれにしても、道路は上下線ともタクシーとバスで埋め尽くされ、
身動きできない状態。タクシーは黄色のスズキ一色。現地生産の「スズ
キ・カルタス」。フロント・マスクのエンブレムは、おなじみの角張っ
た「S」。リアは「長安鈴木」の漢字表記。地方では「アルト」のタク
シーもあるようですが、重慶ではほとんどがカルタスの「SC-7100」タ
イプ。上海あたりのタクシーは、フォルクス・ワーゲンの「サンタナ」
が圧倒的シェアだった覚えですが…。
自動車談義のついでにナンバー・プレートのお話。基本的には、最初
に省とか直轄市等を漢字で表し、次にアルファベットの都市コードがつ
き、その後に固有のナンバーという構成。例えば、四川省の成都では
「川A・○○○」。「川」は四川省の川、「A」は省都である成都市の
コード。
重慶では「渝A・○○○」。重慶は第4番目の「直轄市」であるため省
の漢字は使わず、渝州の「渝」が頭文字となっています。なお、直轄市
というのは、中央政府直属の市のことで、他は北京・上海・天津の3市。
重慶の人口は1,500万人とも3,000万人ともいわれていますが、いずれに
しても中国最大の巨大都市。
●重慶は「山城」
中国の都市部では夥しい数の自転車を見かけます。モータリゼーショ
ンが進むにつれて10年前と比べてその数は減りましたが、それでも朝の
通勤時などは自転車の洪水。信号が変わって一斉に動き出し、迫り来る
自転車の“団塊”には圧倒されます。
ところが、重慶ではそういった光景は見られません。な〜んでか?
そう、重慶は坂が多いからです。いや、坂ばかりだ、という人も。特に
街の中心部は、至るところに坂道あり階段あり。重慶のもう一つの呼び
名は「山城」。むべなるかな。というわけで、自転車というものにはほ
とんどお目にかかれません。その代わりといっては何ですが、市民の足
として、街中でエスカレーターやロープウエイが使われています。
▲重慶名物「天秤棒」
重慶の名物に「天秤棒」があります。坂道や階段の多い街中を、客の
依頼を受けて荷物を運ぶ“商売”。竹の天秤棒の両端にモノの入った袋
をぶら下げて、ヒョイヒョイとリズミカルに坂道を上っていきます。逆
に、天秤棒とロープを持った“担ぎ屋さん”が坂を下ってきます。“担
ぎ屋さん”も重慶だからこそ成り立つ商売なのでしょう。
もう一つの重慶名物は夏の猛暑。重慶は「中国三大かまど」の一つ。
三大かまどとは、南京・武漢と重慶。私たちが到着した日の最高気温は
43.3℃あったとか。ネット上の「Yahoo!天気情報」によれば、8月23日
の重慶の最高気温は32℃とあり、意外と低い。ガイドの揚さんによる
と、予報の段階で39℃以上の数値が出ると、仕事が休みになるとか何と
かで、予想気温は低く抑えるのだとか。結果として「昨日の最高気温は
43℃でした」などというニュースが流れるのは一向にかまわないわけ
で、よくあるケースだそうです。
●世界最大級の土木工事「三峡ダム」プロジェクト
ところで、重慶といえば「三峡下り」の起点の町として有名。「長江
(私たちの年代は『揚子江』と教わりましたが)」は、チベット高原のタ
ングラ山脈にその源を発し、6,300kmを流れて東シナ海に流れ込む中国最
大の河。その長江を、重慶から武漢まで三泊四日かけて下るクルージン
グが「三峡下り」。長江中流の険しい山中にある、瞿塘(くとう)峡・巫
(ふ)峡・西陵峡という絶景の三大峡谷を下るのでこの名があるのです。
ところがです、この「三峡」も三峡ダムの完成とともに、2009年には
水中に没してしまいます。また、重慶市街区から450km、瞿塘峡の入口近
くにある4Aクラスの有名な観光スポット「白帝城」もダム湖の中の浮島
となり、観光船で訪れることになりましょう。
三峡ダムは、新生中国が威信をかけて進めている一大プロジェクト。高
さ185m、幅2309m、貯水量393億?、ダム湖の長さは重慶まで600km。600km
といえば、ざっと東京−神戸間。延々と続くダム湖。完成の暁には、発電
能力1,820万キロワットの世界最大の水力発電所が誕生するという。
反面、このダム建設にともなって110万人以上の人々が移住を余儀なく
され、移転を必要とする企業は約1,500社にのぼるとか。中国情報局の電
脳版『サーチナポスト』によりますと、この移住のことを「移民」と呼
び、重慶市には「移民局」が設置され、移民計画を推進中とのこと。そ
して、移民先は地元の非ダム区をはじめ、遠くは上海や広東など11省市
に及んでいるとのことです。
桁外れの規模の「移民」ですので、年次計画を立てて進められているよ
うです。昨年9月の43,000人の移民に際しては、バス延べ7,500台、列車
160両、客船延べ118艘を使ったと報じています。やっぱり中国はデカイ、
「白髪三千丈」の世界なのでしょうか。
重慶談義が長くなってしまい、すみません。この辺で次へ進むことに
しましょう。 合掌。《次号へ続く/2002.10.1記》