■研修紀行 V

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アジア文化交流センター02夏の研修──

 中国・世界遺産

  九寨溝と黄龍、大足石刻群調査研修紀行 A


「渝州」に見る自動車事情

8月24日(土)重慶の朝。空はどんよりとして、曇っているのかガスって
いるのか、何となく空気が思い感じ。そうそう、重慶は「霧の町」の異
名を取るという。ホテル15階の部屋から窓外を見ると、高層ビルの谷間
にゴチャゴチャと古いアパートがひしめきあっています。文字通り再開
発の谷間。

投宿したホテルは「ハーバープラザ」。漢名は「重慶海逸酒店」。市
の中心部・渝中区五一路にあり、23階建てで五つ星の最高級ホテル。こ
の渝中区の「渝」は「渝州」の「渝」。重慶はまたの名を「渝州」とい
います。隋・唐・宋の時代に、この地域を渝州と呼んだことに由来する
とのこと。


        
渝中区五一路界隈

重慶は、長江と嘉陵江の合流点に位置しています。川の合流点では、
よく氾濫が起きるといわれています。漢和辞典を紐解いてみますと、
「渝」には「あふれる」という意味があると記されています。川の水が
よくあふれるところなので、この地を「渝州」といったのではなかろう
か、と。ただし、この項、私の推測。

話を元へ戻して、そう、「渝中区」というのは、渝州すなわち重慶の
中心部ということを意味しているのでしょう。昨夕、専用バスが空港か
ら江北地区を経て市中心部に近づくにつれて、自動車の洪水に遭遇しま
した。嘉陵江を渡る橋の部分がネックとなって猛烈な車の渋滞。中国の
車事情も大都市では“世界並み”になってまいりました。

ところが、ここ重慶での渋滞は、タダではすまない部分があるようで
す。つい先日までは、タクシーで嘉陵江を渡って市中心部へ入るには、
乗客が5元(約70円)を負担しなければならなかったそうです。因みに、
重慶のタクシー料金は3kmまで5元とか。そこから割り出すと、川を渡る
のに5元は高いのでしょうか、安いのでしょうか。

いずれにしても、道路は上下線ともタクシーとバスで埋め尽くされ、
身動きできない状態。タクシーは黄色のスズキ一色。現地生産の「スズ
キ・カルタス」。フロント・マスクのエンブレムは、おなじみの角張っ
た「S」。リアは「長安鈴木」の漢字表記。地方では「アルト」のタク
シーもあるようですが、重慶ではほとんどがカルタスの「SC-7100」タ
イプ。上海あたりのタクシーは、フォルクス・ワーゲンの「サンタナ」
が圧倒的シェアだった覚えですが…。

自動車談義のついでにナンバー・プレートのお話。基本的には、最初
に省とか直轄市等を漢字で表し、次にアルファベットの都市コードがつ
き、その後に固有のナンバーという構成。例えば、四川省の成都では
「川A・○○○」。「川」は四川省の川、「A」は省都である成都市の
コード。

重慶では「渝A・○○○」。重慶は第4番目の「直轄市」であるため省
の漢字は使わず、渝州の「渝」が頭文字となっています。なお、直轄市
というのは、中央政府直属の市のことで、他は北京・上海・天津の3市。
重慶の人口は1,500万人とも3,000万人ともいわれていますが、いずれに
しても中国最大の巨大都市。


重慶は「山城」

中国の都市部では夥しい数の自転車を見かけます。モータリゼーショ
ンが進むにつれて10年前と比べてその数は減りましたが、それでも朝の
通勤時などは自転車の洪水。信号が変わって一斉に動き出し、迫り来る
自転車の“団塊”には圧倒されます。

ところが、重慶ではそういった光景は見られません。な〜んでか? 
そう、重慶は坂が多いからです。いや、坂ばかりだ、という人も。特に
街の中心部は、至るところに坂道あり階段あり。重慶のもう一つの呼び
名は「山城」。むべなるかな。というわけで、自転車というものにはほ
とんどお目にかかれません。その代わりといっては何ですが、市民の足
として、街中でエスカレーターやロープウエイが使われています。



         ▲重慶名物「天秤棒」


重慶の名物に「天秤棒」があります。坂道や階段の多い街中を、客の
依頼を受けて荷物を運ぶ“商売”。竹の天秤棒の両端にモノの入った袋
をぶら下げて、ヒョイヒョイとリズミカルに坂道を上っていきます。逆
に、天秤棒とロープを持った“担ぎ屋さん”が坂を下ってきます。“担
ぎ屋さん”も重慶だからこそ成り立つ商売なのでしょう。

もう一つの重慶名物は夏の猛暑。重慶は「中国三大かまど」の一つ。
三大かまどとは、南京・武漢と重慶。私たちが到着した日の最高気温は
43.3℃あったとか。ネット上の「Yahoo!天気情報」によれば、8月23日
の重慶の最高気温は32℃とあり、意外と低い。ガイドの揚さんによる
と、予報の段階で39℃以上の数値が出ると、仕事が休みになるとか何と
かで、予想気温は低く抑えるのだとか。結果として「昨日の最高気温は
43℃でした」などというニュースが流れるのは一向にかまわないわけ
で、よくあるケースだそうです。




世界最大級の土木工事「三峡ダム」プロジェクト

ところで、重慶といえば「三峡下り」の起点の町として有名。「長江
(私たちの年代は『揚子江』と教わりましたが)」は、チベット高原のタ
ングラ山脈にその源を発し、6,300kmを流れて東シナ海に流れ込む中国最
大の河。その長江を、重慶から武漢まで三泊四日かけて下るクルージン
グが「三峡下り」。長江中流の険しい山中にある、瞿塘(くとう)峡・巫
(ふ)峡・西陵峡という絶景の三大峡谷を下るのでこの名があるのです。

ところがです、この「三峡」も三峡ダムの完成とともに、2009年には
水中に没してしまいます。また、重慶市街区から450km、瞿塘峡の入口近
くにある4Aクラスの有名な観光スポット「白帝城」もダム湖の中の浮島
となり、観光船で訪れることになりましょう。

三峡ダムは、新生中国が威信をかけて進めている一大プロジェクト。高
185m、幅2309m、貯水量393億
?、ダム湖の長さは重慶まで600km。600km
といえば、ざっと東京−神戸間。延々と続くダム湖。完成の暁には、発電
能力1,820万キロワットの世界最大の水力発電所が誕生するという。

反面、このダム建設にともなって110万人以上の人々が移住を余儀なく
され、移転を必要とする企業は約1,500社にのぼるとか。中国情報局の電
脳版『サーチナポスト』によりますと、この移住のことを「移民」と呼
び、重慶市には「移民局」が設置され、移民計画を推進中とのこと。そ
して、移民先は地元の非ダム区をはじめ、遠くは上海や広東など11省市
に及んでいるとのことです。

桁外れの規模の「移民」ですので、年次計画を立てて進められているよ
うです。昨年9月の43,000人の移民に際しては、バス延べ7,500台、列車
160両、客船延べ118艘を使ったと報じています。やっぱり中国はデカイ、
「白髪三千丈」の世界なのでしょうか。

重慶談義が長くなってしまい、すみません。この辺で次へ進むことに
しましょう。          合掌。
《次号へ続く/2002.10.1記》




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