■研修紀行 V

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アジア文化交流センター02夏の研修──

 中国・世界遺産

  九寨溝と黄龍、大足石刻群調査研修紀行 B


宝頂山はビデオ撮影禁止

8月24日朝8時、専用バスは重慶を後に大足に向けて出発。渋滞と喧噪
の市内を抜け高速道路へ。中国の高速道路整備はかなり進んでいます。
片側3車線の広々とした自動車専用道路。広くて車が少ないせいか、時速
120qで走っていてもそれほどの速度が出ているとは思えません。ガイド
の揚さんの話では、四川省では特に重慶・成都周辺で高速道の整備が著
しいとのこと。

 
 大足は重慶から西へ160qほど離れたところにある小さな田舎町。この
大足県一帯には唐末期から南宋にかけて(9世紀〜13世紀)造られた70余り、
約5万体の塑像群が分布しているという。中でも有名なのが宝頂山石刻群
と北山石刻群。1999年ユネスコの世界遺産に登録。中国国家AAAAクラス
の観光スポットとなるとともに、多くの観光客が押し寄せるようになり
ました。

まずは市街地から北東へ15q、宝頂山へ。重慶から2時間半、バスター
ミナルらしきところに到着。環境保護のためということで,ここで電気
自動車に乗り換え。自動車とは名ばかり、ゴルフ場のカートを一回り大
きくしたような6人乗りオープンカー。数分間走ると目的地に到着。「聖
寿寺」なる額を掲げた寺の山門前で、辛うじて写真を1枚撮り参拝する間
もなく急かされて石窟入口へ。


                   宝頂山入口

「宝頂山」の扁額を埋め込んだコンクリート造の“改札口”から入場。
石刻群は山中の谷にありました。早速ビデオカメラを構えたところ、ど
こから出てきたのか監視員が「NO!」。ビデオ撮影は禁止、スチール撮
影はOKと承知していましたので、手許のスイッチを切り替えてスチール
撮影をしていたのに。監視員に「ビデオ撮影でなく、スチール撮影をし
ているんです。」といっても通じない。英語で話しても通じない。トラ
ブルに気付いたガイド氏が寄ってきて中に入ってくれました。テープを
出せばよいということが分かり、カセットテープをカメラから取り出し
ポケットへ。

これでノー・プロブレム、フラッシュを焚いてパチリ・パチリ。デー
タはすべて「メモリー・スティック」に収録。内緒の話ですが、カセッ
トテープを抜いても、メモリーに動画(ビデオ)を録画することができる
のです。とはいえ、私はそんなルール違反はしませんでした。


圧巻は「釈迦仏涅槃聖跡図」

宝頂山の石刻群は、長さ500mの馬蹄形をした谷の崖に散在しています。
総数1万体を超える塑像群は実に壮大で野性的。おのおのの龕
(がん)には1
体から数十体の塑像が極彩色の装いで安置されています。龕といっても、
ここの龕はボロブドゥールの仏龕やシルクロードの千仏洞などと比べる
と桁外れに大きく、高さが10mを超え幅が十数mというのも珍しくありま
せん。

それぞれの龕には「父母恩重経変相」「大方仏報恩経変相」とか、「地
獄変相」とか名前が付けられ、それぞれのストーリーを具現しています
が、「釈迦仏涅槃聖跡図」は圧巻。「釈迦仏涅槃聖跡図」は馬蹄形の谷の
最奥、突き当たりのところにあります。「大仏湾11号」とナンバーリング
されておりますが、この「大仏湾」のネーミングも言い得て妙。このあた
りの谷はちょうど海の「湾」のような形に見えるところから、大仏ましま
す「湾」と名付けられたのでしょう。

なぜ「大仏」なのかといえば、この釈迦涅槃像が大仏だからです。釈迦
涅槃像はもちろん「寝釈迦」ですが、その長さはなんと31m。
南宋時代
の作。仏龕の高さは7m。オーバー・ハングになった岩山の庇が崩れ落ち
そうで心配。4:3のカメラのフレームではお釈迦さまのお顔だけでいっ
ぱい。全体は超広角レンズでなければ収まりません。佛弟子や諸天の像
も添えられていて賑やか。お足の方へさがってファインダーを覗くと、
お顔がお顔と分からないほど小さくなってしまいます。でも、雄大で迫
力のある素晴らしい涅槃像です。


           
釈迦仏涅槃聖跡図

涅槃像の前で、団員一同でパーリ文三帰依による勤行を行って感慨一
入。終わって記念撮影。カメラマンがロケーションとカメラ・アングル
選定に一苦労。

因みに、インターネット上のホームページ『石窟の美』(中国版)には、
宝頂山石刻群が次のように紹介されています。

釋迦佛涅槃聖跡図圖俗稱「臥佛」・位於大佛湾灣東崖(中略)
涅槃是佛教宣揚的「不生不死・常樂我浄」的最高境界(中略)
佛像顯露部
?長三十一米・慧眼微閉…


 ●異彩を放つ「千手観音龕」

釈迦涅槃像の他にも「華厳三聖像」とか、少々マンガチックなパノラ
マ絵巻物ともいえる「地獄変相」など見応えのある像がありましたが、
千手観音像は格別印象的でした。大仏湾第8号の番号が付いた「千手観
音龕」は「釈迦仏涅槃聖跡図」より少し手前にありました。観音像はそ
れほど大きくありませんでしたが、高さ7m、幅10余ある正面の壁全体
が観音さまの手で埋まってしまっています。しかも総金箔押。他の龕の
顔料による彩色像とは全く違った輝きを呈し、文字通り異彩を放ってい
ます。


     千手観音HP『石刻の美』より)

前出のホームページ『石刻の美』には
 

    在八十八平方米的崖壁上刻有一千0七隻手,似孔雀開屏般展開

と書かれています。88平方メートルの岩壁上に1007の手があり、孔雀が
羽を開いたのに似ている、といった意味でしょう。まさにその通り。1時
間弱で一通り全窟を見終わって外へ出たら急に暑さを感じました。見学
に夢中で暑さを忘れていたのでしょうか。時計を見ると11時半。昼食の
のち午後は北山石刻群の踏査となりましょう。合掌。
                   《次号へ続く/2002.11.1記》



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