●宝頂山はビデオ撮影禁止
8月24日朝8時、専用バスは重慶を後に大足に向けて出発。渋滞と喧噪
の市内を抜け高速道路へ。中国の高速道路整備はかなり進んでいます。
片側3車線の広々とした自動車専用道路。広くて車が少ないせいか、時速
120qで走っていてもそれほどの速度が出ているとは思えません。ガイド
の揚さんの話では、四川省では特に重慶・成都周辺で高速道の整備が著
しいとのこと。
大足は重慶から西へ160qほど離れたところにある小さな田舎町。この
大足県一帯には唐末期から南宋にかけて(9世紀〜13世紀)造られた70余り、
約5万体の塑像群が分布しているという。中でも有名なのが宝頂山石刻群
と北山石刻群。1999年ユネスコの世界遺産に登録。中国国家AAAAクラス
の観光スポットとなるとともに、多くの観光客が押し寄せるようになり
ました。
まずは市街地から北東へ15q、宝頂山へ。重慶から2時間半、バスター
ミナルらしきところに到着。環境保護のためということで,ここで電気
自動車に乗り換え。自動車とは名ばかり、ゴルフ場のカートを一回り大
きくしたような6人乗りオープンカー。数分間走ると目的地に到着。「聖
寿寺」なる額を掲げた寺の山門前で、辛うじて写真を1枚撮り参拝する間
もなく急かされて石窟入口へ。
▲宝頂山入口
「宝頂山」の扁額を埋め込んだコンクリート造の“改札口”から入場。
石刻群は山中の谷にありました。早速ビデオカメラを構えたところ、ど
こから出てきたのか監視員が「NO!」。ビデオ撮影は禁止、スチール撮
影はOKと承知していましたので、手許のスイッチを切り替えてスチール
撮影をしていたのに。監視員に「ビデオ撮影でなく、スチール撮影をし
ているんです。」といっても通じない。英語で話しても通じない。トラ
ブルに気付いたガイド氏が寄ってきて中に入ってくれました。テープを
出せばよいということが分かり、カセットテープをカメラから取り出し
ポケットへ。
これでノー・プロブレム、フラッシュを焚いてパチリ・パチリ。デー
タはすべて「メモリー・スティック」に収録。内緒の話ですが、カセッ
トテープを抜いても、メモリーに動画(ビデオ)を録画することができる
のです。とはいえ、私はそんなルール違反はしませんでした。
●圧巻は「釈迦仏涅槃聖跡図」
宝頂山の石刻群は、長さ500mの馬蹄形をした谷の崖に散在しています。
総数1万体を超える塑像群は実に壮大で野性的。おのおのの龕(がん)には1
体から数十体の塑像が極彩色の装いで安置されています。龕といっても、
ここの龕はボロブドゥールの仏龕やシルクロードの千仏洞などと比べる
と桁外れに大きく、高さが10mを超え幅が十数mというのも珍しくありま
せん。
それぞれの龕には「父母恩重経変相」「大方仏報恩経変相」とか、「地
獄変相」とか名前が付けられ、それぞれのストーリーを具現しています
が、「釈迦仏涅槃聖跡図」は圧巻。「釈迦仏涅槃聖跡図」は馬蹄形の谷の
最奥、突き当たりのところにあります。「大仏湾11号」とナンバーリング
されておりますが、この「大仏湾」のネーミングも言い得て妙。このあた
りの谷はちょうど海の「湾」のような形に見えるところから、大仏ましま
す「湾」と名付けられたのでしょう。
なぜ「大仏」なのかといえば、この釈迦涅槃像が大仏だからです。釈迦
涅槃像はもちろん「寝釈迦」ですが、その長さはなんと31m。南宋時代
の作。仏龕の高さは7m。オーバー・ハングになった岩山の庇が崩れ落ち
そうで心配。4:3のカメラのフレームではお釈迦さまのお顔だけでいっ
ぱい。全体は超広角レンズでなければ収まりません。佛弟子や諸天の像
も添えられていて賑やか。お足の方へさがってファインダーを覗くと、
お顔がお顔と分からないほど小さくなってしまいます。でも、雄大で迫
力のある素晴らしい涅槃像です。
▲釈迦仏涅槃聖跡図
涅槃像の前で、団員一同でパーリ文三帰依による勤行を行って感慨一
入。終わって記念撮影。カメラマンがロケーションとカメラ・アングル
選定に一苦労。
因みに、インターネット上のホームページ『石窟の美』(中国版)には、
宝頂山石刻群が次のように紹介されています。
釋迦佛涅槃聖跡図圖俗稱「臥佛」・位於大佛湾灣東崖(中略)
涅槃是佛教宣揚的「不生不死・常樂我浄」的最高境界(中略)
佛像顯露部?長三十一米・慧眼微閉…
釈迦涅槃像の他にも「華厳三聖像」とか、少々マンガチックなパノラ
マ絵巻物ともいえる「地獄変相」など見応えのある像がありましたが、
千手観音像は格別印象的でした。大仏湾第8号の番号が付いた「千手観
音龕」は「釈迦仏涅槃聖跡図」より少し手前にありました。観音像はそ
れほど大きくありませんでしたが、高さ7m、幅10余ある正面の壁全体
が観音さまの手で埋まってしまっています。しかも総金箔押。他の龕の
顔料による彩色像とは全く違った輝きを呈し、文字通り異彩を放ってい
ます。
▲千手観音龕(HP『石刻の美』より)
前出のホームページ『石刻の美』には
在八十八平方米的崖壁上刻有一千0七隻手,似孔雀開屏般展開
と書かれています。88平方メートルの岩壁上に1007の手があり、孔雀が
羽を開いたのに似ている、といった意味でしょう。まさにその通り。1時
間弱で一通り全窟を見終わって外へ出たら急に暑さを感じました。見学
に夢中で暑さを忘れていたのでしょうか。時計を見ると11時半。昼食の
のち午後は北山石刻群の踏査となりましょう。合掌。
《次号へ続く/2002.11.1記》