8月26日・日曜日、快晴。外へ出ると長袖のシャツを着ていてもヒ
ンヤリと寒い。真っ青な空も素晴らしいがホテルも素晴らしい。到着
が遅かったので、昨夜はホテルの全容が分かりませんでしたが、スケ
ールの大きさには驚かされました。
広大な敷地に西館と東館そしてイベント館が建っていて、切り妻屋
根の重なりがみごと。オープン間もないようで、ロビーも客室もピカ
ピカで快適。まだガイドブックには載っていませんが、五つ★間違い
なし。朝食のバイキングもメニュー豊富で食べすぎ。
▲九寨溝国際大酒店
さあ、いよいよきょうは九寨溝の探訪。バスは8時半にホテルを出発。
5分ほどで入場ゲートの駐車場に到着。九寨溝の中は一般車両通行禁止。
環境保護のため天然ガスで動く専用バスに乗り換えなければなりませ
ん。
まずは入場ゲートに向けて歩き出しましたが、どこから湧き出し
て?きたのかもの凄い数の人。人人人の波。それもほとんど、いや全
て中国人。私たち以外の日本人は全く見かけませんでした。
きょうは5,000人〜6,000人が入場するという。たまげた。10年前は
1日に1,000人、昨年は3,000人、今年は6,000人だそうです。最高記録
は16,000人とか。
秋には毎日1万人以上が訪れるという盛況ぶり。今でこそホテルが数
多く建っていますが、最初のころはバスの中で泊まって見学したとも。
チケット売り場の上の電光案内には、「歓迎来到九寨溝」のあとに
「門票:145元」と出ていました。入場料は1人145元(約2,000円)。
ああ、そんなもんかと思いましたが、中国山間地の一般庶民の月収
に相当する金額となると、中国人の旅行好きも大したものだと感心。
▲電光掲示板
私たちのチャーター・バスが来ました。ドアには「自動門」「無煙
車」と大書してあります。「無煙車」とは、排ガスが無いということ
ではなく、天然ガスを燃料とするので排ガスがきれいな車という意味
でしょう。「無煙車」は9時25分ターミナルを出発。
九寨溝は1992年に世界(自然)遺産に登録された、四川省は岷山山
脈の深い峡谷に広がる景勝地。総延長80qにわたり手つかずの自然景
観が展開する秘境という。
驚くべき透明度の水、例えようもない湖水の青さ、緑深き原生林、
遊歩道脇には可憐な高山植物。苔むした灌木の根を洗って流れる水晶
のように透き通った水。
いささかほめすぎのように聞こえるかも知れませんが、まだまだ説
明不足。全容を説明できる言葉が見つかりません。
九寨溝の全体像はY字形。探訪の方途は、Y字の最下部から出発し
てまず左の谷の頂点まで行く。そして左の谷に点在するポイントを順
次見学して下ってきて分岐点で昼食。
午後は右側の谷の頂点まで登って、同様に下りながら数カ所の景勝
地を順次見学し、分岐点以下の比較的平坦な部分も歩いて探勝すると
いう寸法。
●森と水が創り出す神秘な世界
「無煙車」バスの乗り心地はあまりよろしくありません。舗装路面
が悪いうえサスペンションも固いため、ガタガタ、キーキーと豊かな
振動と音。おまけに窓ガラスが汚いので、ガラス越しにファインダー
を覗いても絵にならない。
素晴らしい鏡のような水面の池が見えてきたので、池畔でバスを停
めるよう求めましたが却下され、ドライバーはマニュアルどおり頂上
をめざして淡々とハンドルを握っていました。
と、赤い帽子に黄色のベストを着けた人が歩いているのが見えまし
た。チベット族の人だそうです。何をしているのか訊ねましたところ、
園内のゴミ拾いとポイ捨て監視が仕事とのこと。園内は禁煙でゴミ捨
て厳禁。違反者には罰金。トイレは無料。
もともとこの地はチベット族の居住地域。観光開発で強制的に転居
させられた人もありましょう。そうした面での救済策も含めて、少数
民族処遇の一環として、チベット族の人を清掃人として雇用している
のではなかろうか。これ、私の推測。
10時35分、Yの字左側の谷頭にある「長海」に到着。ターミナルか
ら32qの距離を1時間10分かけてバスで登ってきた勘定。ここ長海の
標高は3,100m。でも、高山病を訴える団員は一人もいない。
空には雲一つなく快晴、暑からず寒からず、実に爽やか。空気が薄
いせいか日差しがピリピリと肌に突き刺さる感じ。
到着広場では、ギンギラギンの民族衣装を着けてヤクに乗ってパチ
リ、パチリといった光景があちらにもこちらにも。「租衣10元 租牛
10元」と看板に出ていましたので、衣装の借り賃が10元(約135円)、
ヤクに乗るには10元必要だということでしょう。
広場から少し下ったところに展望台がありました。長海が一望のも
とに眺められます。長海は長さ7.5q、幅200m、深さ88の巨大な湖。
その名のごとく谷の奥深くまで湖面が長く伸びていました。
水の色はエメラルド色といおうか何といおうか、例えようもない美
しさで、吸い込まれるような神秘さをたたえた蒼さ。しかも、さざ波
が立ったり消えたりするたびにその表情を変える水面。
▲長海
再びバスに乗って次は「五彩池」。階段を下りてゆくと眼下に池が
見えてきました。きれいなエメラルド色の水。深さが数mあると思わ
れますが、波による水面の揺れがなければ、水があるかないか分から
ないほど透明度が高い。池底の岩がくっきり見え、手を伸ばせば掴め
る感じ。
バスは、つぎはぎ舗装の坂道をニュートラル・ギアで一気に下りま
す。ブレーキは大丈夫かな? ピッチングとローリングに耐えること
30分、突然視界が開けました。
「ここで降りま〜す。貴重品は持って降りてください」とガイド氏。
この広場にはバス・プールや仮設トイレ、土産物店とレストランなど
があります。まずはレストランへ。
ン?レストランはプレハブの仮設建物。入口には「自助餐庁」の看
板。セルフサービスのレストランなのです。そしてその下には「毎客
30元」、いや、「30元」の上に紙を貼って「25元」と書き直してありま
した。デフレ?
プレハブ建物の中へ入って、「何じゃ、これ…」。ガイド氏は「昼
食はバイキングです」とおっしゃっていたのに。何のことはない、セ
ルフサービスの学食、いや、学食よりひど〜い。
食器はアルミのトレーにアルミのボウル。バイキング形式でお菜や
ご飯を取って食卓へ。この食卓がまたお粗末。天井を見上げれば、パ
イプの合掌と屋根裏材がむき出しで、まるで建設現場の仮設事務所。
食欲進まず早々に退散。
《次号へ続く/2003.3.30本田眞哉・記》