■研修紀行 V

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アジア文化交流センター02夏の研修──

 中国・世界遺産

  九寨溝と黄龍、大足石刻群調査研修紀行 J

比類なき景観「珍珠(真珠)灘(しんじゅたん)

午後はYの字の右側を探勝。どういうわけか最奥の「原始森林」ま
では行かず、「熊猫(パンダ)海」を最初のポイントとし、順次下って
いくとのこと。熊猫海で下車し池畔へ。谷頭に堰を築いて水をためる
方式の人造池。日本の潅漑用ため池によく使われる方式。

カメラを構えると俄にあたりが暗くなり、突然ポツッポツッポツッ
と大粒の雨。カメラが濡れないようにと腰をかがめて一目散にバスへ。
雷鳴がとどろきバスのフロント・グラスは滝の雨。中国人の観光客が
乗合バスと間違えて飛び込んできてドライバーに押し返される一幕も。
ところで、熊猫海のネーミングは、かつてパンダがよくここへ水を飲
みに来たことに由来しているとか。

熊猫海の次は「五花海」。下車して池にかかる橋まで行ったものの
雨足衰えず、水中の“五色の花”は望むべくもなく、そそくさとバス
に戻りました。濡れた顔や腕を拭く暇もなく、バスは次のポイントで
ストップ。サイン・ポールを見ると、そこは「珍珠(真珠)灘」。


 実にきれいな水の流れ。その流れの上に遊歩道が橋を架けたように
延びていました。手を伸ばせば水に手が届く。苔むした灌木の島の間
を縫って際限なく流れる透明度の高い水。見つめていると聞こえるの
は水の音のみ、まるで別世界。何か盆栽の中にいるような錯覚に陥る
佇まい。

           ▲珍珠(真珠)灘

一方、遊歩道から下流側に目を転じると、こちらはギザギザの岩肌
を水が一面にしぶきを上げて流れ下っていきます。無数の水玉をはじ
き飛ばしながら。な〜るほど、これが真珠灘なのだ。飛び散る水玉が
真珠の玉のよう。これは凄い。他に比類なき素晴らしい景観。ただ、
撮影は難しい。オート撮影では玉にならない、糸くずか綿くずになっ
てしまうでしょう。

いつの間にか雨は止み晴れ間も垣間見えるなか、次のポイント「諸
日朗瀑布」へ向かう。諸日朗瀑布は、高さはそれほどでもないが幅が
広い。たまげるほどの景観ではありませんが、近くに寄ると音としぶ
きに圧倒されます。しばし無言で佇む。

左回りのマニ車

諸日朗瀑布をあとにして遊歩道を進む。道ばたに咲く高山植物の名
や樹木の種類を話題に、文字通り“道草”を食いながらのんびりと遊
歩道を進む。因みに、九寨溝の遊歩道は高床式で、丸太の上に厚さ4
〜5pの床板を打ち付け、その上に建材の金網(ラス)を張るという構
造。このラスが滑り止めの役目を果たし、“路面”が濡れていても安
心して歩けるというもの。園内には幅2mほどのこうした遊歩道が総
延長100qを超えると思われる長さで設置されています。

陽光を浴びのんびりと歩くこと30分、「樹正瀑布」に到着。前の諸
日朗瀑布に比べればはるかにスケールは小さいけれど、変化に富んで
おもしろい。渓流沿いの小径を歩きながらシャッターを切るのです
が、足場が悪いうえ前も人人、後からも人人で、まともな写真は撮れ
ません。おまけに中国の人々は、例の甲高い声を発しながらやたらポ
ーズを取って写真を撮り合う。無人の風景を撮りたいこちらにとって
は迷惑この上ない。

さらに小径を進むと、前方広葉樹が茂るなかに何やら古めかしい小
屋が見え隠れ。近づいてみると、出入り口が大変混みあっています。
窓越しに見えるくらい室内で何か回っている様子。そう、マニ車でし
た。中に入ると、直径が1mもあろうかと思われるマニ車が左回り(上
から見て)に回っていました。ボン教のマニ車です。


          ▲巨大なマニ車

ラマ教のマニ車は右回り、時計方向に回します。かつて訪れたチベ
ットは拉薩の大昭寺で見たマニ車は右回りだったことを思い出しまし
た。小屋の外へ出て床下を見ると、マニ車の軸に水車が取り付けられ
渓流の水の力で回転していました。本来、僧とか信者が自分の力で回
すべきマニ車を、水力で回す手抜き修行?はいかがなものかと思った
のは私ひとりだったでしょうか。

時計の針が午後5時に近づいたころ、「盆景灘(ぼんけいたん)」に到
着。あたかも盆栽のように見える景観のためこの名が付いたとか。開
けた地形全面に広がる浅い流れのなかに、灌木の集まりが苔を伴って
点在している感じといったらよろしいか、例えて盆栽のようだという
のでしょう。九寨溝探勝の最後のポイントということで、全団員そろ
って記念撮影。「ハイ、チーズ!」。

●九寨溝から4,100mの峠を越えて黄龍へ

最高級ホテルで連泊とはありがたい。爽やかな気分で迎えた8月27日
火曜日の朝は快晴。各自スーツ・ケースの存在を確認してバスに乗車。
ホテル出発は8時10分。きょうは同じく世界自然遺産に登録されている
黄龍名勝区の探訪。

「黄龍までの所要時間は3時間30分。途中、“信用できる”宝石店に
ご案内し、黄龍到着後昼食をとり、午後は名勝黄龍を見学します」と
ガイド氏が行程説明。途中、若干渋滞もありましたが、10時半ごろ川主
(せんしゅうじ)に到着。トイレ休憩も兼ねて予告の宝石店にお立ち寄り。
店に入ると、まず“先生”による宝石の真贋鑑定の実演。そして売り
場へご案内、というお定まりのコース。私は全く興味がないので、外
へ出てチベット族の売店の店頭風景をパチリ・パチリ。バスに戻る
と、求めたジュエリーの“内覧会”。

           ▲雪宝頂

「きょうは運がいいです。はっきり見えます」。ガイド氏の指さす
車窓にはマッターホルンのような形をして真っ白に雪をかぶった山。
岷山山脈の主峰「雪宝頂」です。海抜5,588m。バスは岩山を削った
ヘアピン・カーブを右に左に大きく揺らしながら進み、ほどなく平坦
な地に出ました。峠です。標高4,100m。下車して雪宝頂などの写真
を撮る。昨日来高地になれてきたせいか、高山病の兆候は全くありま
せん。でも、用心してソロリ、ソロリ。時に12時5分。

40分ほど山道を下って黄龍の「停車場」に到着。きょうは4,000人
ほどの入場者があるということで、バス・プールも満車。順番待ちの
末ようやく駐車でき、今晩宿泊のホテル「華龍山荘」のロビーへ。チ
ェックイン。

昼食・休憩ののち黄龍の探訪に出発。黄龍景勝区は、玉翠山麓にで
きた1本の渓谷に見所が並んでいて、遊歩道入口から頂上の「五彩池」
までは片道約5q、往復10qを歩いて見学。標高は、スタート地点が
3,100m、最奥の「五彩池」で4,100m。その差1,000m。

           《次号へ続く/2003.3.30本田眞哉・記》



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