●石灰水が生んだ景勝「黄龍」
午後2時50分、出発に当たってホテル前でガイド氏よりインフォーメ
ーション。遊歩道は一方通行で頂上まで往復するので道に迷うことは
ない。トイレは各所にあり無料できれい。高山病に気を付けて自分の
ペースで歩いて、午後6時半にホテルのロビーに集合すること、等々。
2〜3分歩くと遊歩道入口のゲート。ゲートを入りバイ(サンズイに立の
下に口)源橋を渡ると正面に「世界自然遺産 中国黄龍」と刻銘した碑
が疑木の形で立ちはだかっていました。威勢のよいかけ声に目を向け
ると、駕籠の勧誘です。見れば、もうすでに2〜3名の団員が駕籠の籠
椅子に収まっていらっしゃいます。駕籠賃は往復日本円で6,000円。
なかなかお値段がよろしいようで。加えて、チップを取られたとか、
あげたとか意見の分かれるところ。
▲お駕籠
お駕籠といっても、太い2本の竹に竹製の椅子を取り付けて、前後
2人で担ぐというシロモノ。日本のお駕籠のように屋根のところで吊
り下げる方式と違って、椅子の肘掛けの位置に竿を取り付ける構造の
ため、見晴らしはよいが不安定。でも、以前九華山や峨眉山で見かけ
たお駕籠より安定性は高いし、日除けもついていて立派。
団員の三分の一ほどがお駕籠に乗ったようですが、私は歩いて登る
ことに決めました。「観光游覧道」の標示の矢印にしたがって歩き始
めました。遊歩道は木や石段で整備されていて、幅員もあり歩きやす
い。
10数分進むと棚田形の池が現れました。「迎賓彩池」。エメラルド
・グリーンの水をたたえて、えもいわれぬ美しさ。透き通った水が縁
を超えて下の池に流れ込んでいます。ン?どこかで見た風景。そうだ、
トルコのパムッカレだ。同じ石灰水の造形美。「迎賓」に礼を言い先
へ進むと、次は「飛瀑流輝」。
飛瀑流輝は、その名の通り滝。瀑高は14mとそれほど高くないけれ
ど、幅は広く88m。遠くの山を背景に何条もの滝が流れ落ち、絵にな
っていました。その先へ進むと、「蓮台飛瀑」「洗身洞」と続きます。
洗身洞とは、高さ20mほどの全面鍾乳石の崖にポッカリ口を開けた洞
窟のこと。説明書きによれば、不妊の女性がこの洞窟に入ると子宝に
恵まれるとか。
●印象的だった「争艶彩池」と「金沙舗池」
ゆっくり、ゆっくりマイペースで遊歩道を登って来たのですが、
標高が上がるにつれて息がはずみます。とはいうものの、小休止しよ
うと思うころにちょうど景勝ポイントに着き、写真を撮っている間に
動悸が収まっていくという状態で、サイクルがうまくかみ合っている
感じでした。
次のポイントは「金沙舗池」。大変印象に残ったポイントの一つ。
延々と続くなだらかな斜面を水晶のような水が流れ落ちています。斜
面は黄金色で鱗のよう。表面を流れる水が、黄金色の鱗を一層輝かせ
深みを際だたせています。まるで黄金の鱗を踊らせて上へ登っていく
竜のよう。一説にはこれが黄龍の名の由来とも。
▲金沙舗池
先へ進むと「明鏡倒映」の標示。英訳では「Mirror Pool」書かれ
ていましたが、そのとおり、ズバリ鏡の池。進行方向より振り返って
見る景観が素晴らしい。鏡のように澄み切った水面に近くの木立、遠
くの山々が逆さまに映ってグーッ。
さらに登っていくといくつかの景勝ポイントが迎えてくれました
が、そうしたなかで色彩的にひときわ目を引いたのが「争艶彩池」。
文字通りいくつかの棚田池がその美しさを競っています。ここは標
高3,400m。数十はあろうと思われる棚田池が色とりどりに展開して
います。池底の堆積物のためか、はたまた水深の差によってか、ブ
ルーあり、金色あり、緑色あり、グラデーションあり…さまざまな色
彩を呈しています。目線で見る池の堤の造形美もまた格別。
争艶彩池をあとにしばらく進むと、接仙橋に到着。一方通行はここ
まで。このあたりの道は林の中で何の変哲もなく、水の音も聞こえま
せん。と、前方木立の間に何か黄色いものが見えてきました。お寺だ、
雰囲気で直感。標示を見ると「中寺」。木造瓦葺きに黄色い壁の建物
で独特の外観。時計の針は4時55分、時間がない。寺の中へも入らず、
休むことなく前進。
このあたりの遊歩道はコンクリート舗装と石段の組み合わせ。おや、
上からお駕籠がやってくる。「お先に〜っ」。見ればわがパーティー
の女性団員。少々焦り気味になって歩を進めると、間もなく前方にま
た黄色い建物。黄龍寺だ。万年雪をいただいた玉翠峰をバックに、二
階建ての堂宇がカラフルな甍をピンと跳ね上げ、堂々たる姿で建って
いました。
●景勝黄龍のハイライト「五彩池」
正面の扁額には「黄龍古寺」と大書されていました。道教のお寺の
ようです。5時を10分過ぎているというのに門前はかなりの賑わい。漢
人、チベット人、そしてわがパーティーの日本人。
▲黄龍寺
黄龍寺の奥に、景勝黄龍のハイライト「五彩池」があるという。疲
れてはいたものの、百尺竿頭一歩を進めてトライしてみることにしま
した。
寺の右脇から小径を登っていくとだんだん視野が開け、5〜6分で遊
歩道より一段高いところにある展望台に到着。素晴らしい眺望。眼下
に五彩池全体と黄龍寺の屋根を見下ろすことができます。陽が傾いて
いるので全体が山陰に入り、きらめくほどの輝きはありませんが、数
多ある棚田形の池はおのおの個性的な色彩を放っていました。マリン
・ブルー、エメラルド・グリーン、ダーク・グリーン、黄色、黄金色、
銀緑色…といった塩梅。陽光を浴びれば、これらの色が動画的に変化
するのかも。
展望台から降りて五彩池を一周する木道へ。近くで見ると、鱗状の
棚田池の青い水の色が一層鮮やか。まさに「水色」。また、水の透明
度もひときわ高く、つい手を伸ばして飲みたくなるほど。目線を上げ
て黄龍寺裏あたりを見ると、鍾乳石に埋もれて何かが建っている様子。
よくよく見ると石塔でした。鍾乳石がだんだん積もって石塔を飲み込
んでいくのでしょう。黄龍寺の創建は明代といわれていますから、同
時期に建塔されたとすれば、500〜600年の間に1mほど埋もれたことに
なりましょうか。
▲五彩池
五彩池の景観の素晴らしさに見とれている間に、時計の針は容赦な
く進み5時45分。おーっと、もう帰らなくっちゃ。ロビー集合6時半に
間に合うかな? 黄龍寺から入場ゲートまでの4,160mを、速歩で一気
に下りました。途中休まず、写真も撮らず、ただ一人ひたすら歩いて、
入場ゲートのばい(サンズイに立の下に口)源橋に着いた時には人もまばら。
6時37分。所要時間52分。
私をはじめ、ロビー集合時刻に遅れた人も若干ありましたが、お駕
籠の人も徒歩の人も、全員無事帰還できました。めでたし、めでたし。
02年度アジア文化交流センター夏の研修は、主要目的の全てを達成し、
ここに大団円を迎えることができました。団員はじめエージェント等、
関係各位のご支援とご協力に対して謝々。
《完/2003.3.30本田眞哉・記》