■研修紀行 V

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アジア文化交流センター02夏の研修──

 中国・世界遺産

  九寨溝と黄龍、大足石刻群調査研修紀行 K

●石灰水が生んだ景勝「黄龍」

午後2時50分、出発に当たってホテル前でガイド氏よりインフォーメ
ーション。遊歩道は一方通行で頂上まで往復するので道に迷うことは
ない。トイレは各所にあり無料できれい。高山病に気を付けて自分の
ペースで歩いて、午後6時半にホテルのロビーに集合すること、等々。

 2〜3分歩くと遊歩道入口のゲート。ゲートを入りバイ(サンズイに立の
下に口
)源橋を渡ると正面に「世界自然遺産 中国黄龍」と刻銘した碑
が疑木の形で立ちはだかっていました。威勢のよいかけ声に目を向け
ると、駕籠の勧誘です。見れば、もうすでに2〜3名の団員が駕籠の籠
椅子に収まっていらっしゃいます。駕籠賃は往復日本円で6,000円。
なかなかお値段がよろしいようで。加えて、チップを取られたとか、
あげたとか意見の分かれるところ。


             ▲お駕籠

 お駕籠といっても、太い2本の竹に竹製の椅子を取り付けて、前後
2人で担ぐというシロモノ。日本のお駕籠のように屋根のところで吊
り下げる方式と違って、椅子の肘掛けの位置に竿を取り付ける構造の
ため、見晴らしはよいが不安定。でも、以前九華山や峨眉山で見かけ
たお駕籠より安定性は高いし、日除けもついていて立派。

 団員の三分の一ほどがお駕籠に乗ったようですが、私は歩いて登る
ことに決めました。「観光游覧道」の標示の矢印にしたがって歩き始
めました。遊歩道は木や石段で整備されていて、幅員もあり歩きやす
い。

 10数分進むと棚田形の池が現れました。「迎賓彩池」。エメラルド
・グリーンの水をたたえて、えもいわれぬ美しさ。透き通った水が縁
を超えて下の池に流れ込んでいます。ン?どこかで見た風景。そうだ、
トルコのパムッカレだ。同じ石灰水の造形美。「迎賓」に礼を言い先
へ進むと、次は「飛瀑流輝」。

 飛瀑流輝は、その名の通り滝。瀑高は14mとそれほど高くないけれ
ど、幅は広く88m。遠くの山を背景に何条もの滝が流れ落ち、絵にな
っていました。その先へ進むと、「蓮台飛瀑」「洗身洞」と続きます。
洗身洞とは、高さ20mほどの全面鍾乳石の崖にポッカリ口を開けた洞
窟のこと。説明書きによれば、不妊の女性がこの洞窟に入ると子宝に
恵まれるとか。
 

印象的だった「争艶彩池」と「金沙舗池」

 ゆっくり、ゆっくりマイペースで遊歩道を登って来たのですが、
標高が上がるにつれて息がはずみます。とはいうものの、小休止しよ
うと思うころにちょうど景勝ポイントに着き、写真を撮っている間に
動悸が収まっていくという状態で、サイクルがうまくかみ合っている
感じでした。

 次のポイントは「金沙舗池」。大変印象に残ったポイントの一つ。
延々と続くなだらかな斜面を水晶のような水が流れ落ちています。斜
面は黄金色で鱗のよう。表面を流れる水が、黄金色の鱗を一層輝かせ
深みを際だたせています。まるで黄金の鱗を踊らせて上へ登っていく
竜のよう。一説にはこれが黄龍の名の由来とも。


            ▲金沙舗池

 先へ進むと「明鏡倒映」の標示。英訳では「Mirror Pool」書かれ
ていましたが、そのとおり、ズバリ鏡の池。進行方向より振り返って
見る景観が素晴らしい。鏡のように澄み切った水面に近くの木立、遠
くの山々が逆さまに映ってグーッ。

 さらに登っていくといくつかの景勝ポイントが迎えてくれました
が、そうしたなかで色彩的にひときわ目を引いたのが「争艶彩池」。
文字通りいくつかの棚田池がその美しさを競っています。ここは標
高3,400m。数十はあろうと思われる棚田池が色とりどりに展開して
います。池底の堆積物のためか、はたまた水深の差によってか、ブ
ルーあり、金色あり、緑色あり、グラデーションあり…さまざまな色
彩を呈しています。目線で見る池の堤の造形美もまた格別。

 争艶彩池をあとにしばらく進むと、接仙橋に到着。一方通行はここ
まで。このあたりの道は林の中で何の変哲もなく、水の音も聞こえま
せん。と、前方木立の間に何か黄色いものが見えてきました。お寺だ、
雰囲気で直感。標示を見ると「中寺」。木造瓦葺きに黄色い壁の建物
で独特の外観。時計の針は4時55分、時間がない。寺の中へも入らず、
休むことなく前進。

 このあたりの遊歩道はコンクリート舗装と石段の組み合わせ。おや、
上からお駕籠がやってくる。「お先に〜っ」。見ればわがパーティー
の女性団員。少々焦り気味になって歩を進めると、間もなく前方にま
た黄色い建物。黄龍寺だ。万年雪をいただいた玉翠峰をバックに、二
階建ての堂宇がカラフルな甍をピンと跳ね上げ、堂々たる姿で建って
いました。

 
景勝黄龍のハイライト「五彩池」

正面の扁額には「黄龍古寺」と大書されていました。道教のお寺の
ようです。5時を10分過ぎているというのに門前はかなりの賑わい。漢
人、チベット人、そしてわがパーティーの日本人。


            ▲黄龍寺

 黄龍寺の奥に、景勝黄龍のハイライト「五彩池」があるという。疲
れてはいたものの、百尺竿頭一歩を進めてトライしてみることにしま
した。

 寺の右脇から小径を登っていくとだんだん視野が開け、5〜6分で遊
歩道より一段高いところにある展望台に到着。素晴らしい眺望。眼下
に五彩池全体と黄龍寺の屋根を見下ろすことができます。陽が傾いて
いるので全体が山陰に入り、きらめくほどの輝きはありませんが、数
多ある棚田形の池はおのおの個性的な色彩を放っていました。マリン
・ブルー、エメラルド・グリーン、ダーク・グリーン、黄色、黄金色、
銀緑色…といった塩梅。陽光を浴びれば、これらの色が動画的に変化
するのかも。

 展望台から降りて五彩池を一周する木道へ。近くで見ると、鱗状の
棚田池の青い水の色が一層鮮やか。まさに「水色」。また、水の透明
度もひときわ高く、つい手を伸ばして飲みたくなるほど。目線を上げ
て黄龍寺裏あたりを見ると、鍾乳石に埋もれて何かが建っている様子。
よくよく見ると石塔でした。鍾乳石がだんだん積もって石塔を飲み込
んでいくのでしょう。黄龍寺の創建は明代といわれていますから、同
時期に建塔されたとすれば、500〜600年の間に1mほど埋もれたことに
なりましょうか。


            ▲五彩池

 五彩池の景観の素晴らしさに見とれている間に、時計の針は容赦な
く進み5時45分。おーっと、もう帰らなくっちゃ。ロビー集合6時半に
間に合うかな? 黄龍寺から入場ゲートまでの4,160mを、速歩で一気
に下りました。途中休まず、写真も撮らず、ただ一人ひたすら歩いて、
入場ゲートのばい(
サンズイに立の下に口)源橋に着いた時には人もまばら。
6時37分。所要時間52分。

 私をはじめ、ロビー集合時刻に遅れた人も若干ありましたが、お駕
籠の人も徒歩の人も、全員無事帰還できました。めでたし、めでたし。
02年度アジア文化交流センター夏の研修は、主要目的の全てを達成し、
ここに大団円を迎えることができました。団員はじめエージェント等、
関係各位のご支援とご協力に対して謝々。

           《完/2003.3.30本田眞哉・記》



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