研修紀行 Ⅷ

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アジア文化交流センター07夏の研修 ──

 
ヨーロッパに“アジア”を訪ねる旅 Part Ⅱ

  
ドレスデンで古伊万里と出会い、
        ポツダムを訪れて日本との接点を学ぶ⑧
 

●ブリューリュのテラスの眺めは最高

 話をフラウエン教会へ戻しまして、ミサのために教会内部を見学することができず残念でしたが、向かって左側、教会のオリジナルの黒い外壁の近くに、焼けこげた部材の巨大なモニュメントがありました。ガイド氏によれば屋根の一部とのこと。日本の場合、戦災復興はされたものの、悲惨さを伝えるこうしたモニュメントの数は非常に少ない。ドイツに学ぶべきではないでしょうか。

 25,000人とも、一説135,000人ともいわれる大空襲の犠牲者に追悼の念を捧げつつフラウエン教会と別れを告げ、エルベ河畔へ。アウグストゥス橋より少し上流の「ブリュールのテラス」と呼ばれる遊歩道に出ました。テラスからの展望はまさに絶景。後年文豪ゲーテは「ヨーロッパのバルコニー」と称えたとも。

 「ブリュール」はこのあたりの一等地を全て所有していたハインリッヒ・フォン・ブリュール伯爵にちなんだもの。こちら側の文字通り「百塔の街」の風景も素晴らしいが、川面と対岸に広がる新市街の眺めもこれまたよろし。対岸といえば、私たちの宿泊ホテル「ウェスティン・ベルビュー」がアウグストゥス橋越しに見えます。

 そのホテルより少々下流の河岸にアウグスト王夢半ばの日本館ヤパーニッシェス・バレーがあります。そのあたりから対岸の旧市街の風景を描いた絵があります。それは、宮廷画家カナレットが18世紀中ごろ描いたもので、「エルベのシルエット」とか「カナレットの眺め」とか呼ばれていて有名。この絵は、私たちが最初に訪れたツインガー宮殿の古典巨匠絵画館に所蔵されています。

 陽は高いものの、時計の針はもう5時を回っています。きょうの行程はこれでおしまい。ホーフキルヒェ近くでバスに乗ると、ディスプレイは外気温27℃、時刻は17時15分を示していました。しかし、それほど厚さは感じませんでした。世界遺産の古都ドレスデン旧市街は大変見応えがあり、堪能できました。

 ところが、ガイド氏によるとエルベ川流域ドレスデンの世界遺産の指定が今年外される可能性がある、と。なぜかといえば、上流に新しい橋を架ける計画があるためとのこと。ユネスコからは橋を架けること自体に対してクレームがついているようです。もうすでに設計図も出来上がっているそうで、いよいよ着工となれば、2004年に選ばれた世界遺産から抹消されることになるかも…。

 宿泊ホテル「ウェスティン・ベルビュー」は素晴らしいホテル。エントランスには、五つ星等級を証する大きなプレート。アジア文化交流センターの主催するツアーのホテルはいつもハイ・グレード。今回もベルリンはGRAND HOTEL ESPLANADE BERLIN、ドレスデンはWESTIN BELLEVUE、そしてフランクフルトはSTEIGENBERGER AIRPORT HOTEL。すべてが五つ星のホテル。

 しかも、今回はベルリンとドレスデンでは高級ホテルに2連泊。この2連泊というのは嬉しい。特に加齢の身には大変有り難い。単泊だと毎日毎日スーツケースの整理をしなければならず、時間がかかり大変。今晩もスーツケースを広げたまま、部屋の中も散らかし放しでグーテン・ナハト(おやすみなさい)。

   

●エルベ川上る船の旅

 8月26日(日)午前6 時。部屋のテレビのスイッチが入り、音量がだんだんと大きくなる…。そう、テレビジョンによるモーニング・コール。否、モーニング・コールじゃなくて、モーニング・テレビかな?いずれにしてもグーテン・モルゲン(おはようございます)。きょうはエルベ川のクルージング。お船に乗ってピルニッツ城まで約2時間の“川下り”ならぬ“川上り”の旅。

 専用バスは、きのう訪れた「ブリュールのテラス」の下にある船着き場に到着。船着き場からバロック建築群を見上げるのもまた一興。と、突然「カーン、ゴーン」と鐘の音。ホーフキルヒェの鐘が鳴り出したのです。素晴らしい響き。そのうちに他の教会の鐘も鳴り出したのか、遠く近く、テンポもランダム、音色も入り交じって荘厳ながらにぎやかに響き渡ります。

 鐘の音のシャワーの中乗船開始。お船は大きからず小さからず、全長が60~70mはありましょうか。トン数は? キャビンの部分は2階建てで、3階のオープン・デッキ部分はかなりの広さがあります。ドイツ人などはデッキを好むようで、船の後半部3階デッキはガヤガヤと賑やかな外国人、否、内国人で一杯。わがパーティーは前部キャビンで、静かに談笑したり窓外の景色に目をやったり。

 この船の運航会社はSachsische Dampfschiffahrt(ザクセン汽船会社)。乗船前にガイド氏が、「どんな船に乗ることになるか分かりません。外輪蒸気船になるか、ジーゼル・エンジンの普通の船になるのか」とおっしゃっていましたが、実際に私たちが乗船したのはジーゼル・エンジンのお船。

 ホーム・ページによりますとこの汽船会社の歴史は古く、創業は今から170年ほど前に遡るようです。以後幾多の変遷を経て、1994年に現会社がオーナーとなり事業を受け継いだとのこと。私たちの乗った船は「Grafin Cosel」という名前の「Salon ship」。公開されたデータによりますと、エンジン:2 diesel engines with 460 hp(2基のジーゼル・エンジンで460馬力)、船の長さ:75.1m、乗船定員526席(内:332、外:194席)。

 因みに、外輪蒸気船「Paddle-steamer」は9隻が紹介されていますが、最古のものは1879年に建造され、最新のそれは1929の建造。Padleは(水をかく)櫂(かい)のこと。Steamerは蒸気船。したがって、船の外側に設けた外輪に付けた櫂で水をかいて進む蒸気船がPaddle-steamer。なお、外輪の大きさは10~11mあると記されています。

 出航して20分ほど、振り返ると再興なったフラウエン教会の鐘楼がはるか彼方にかすみ、左側の河岸(右岸)には興味ある風景が展開します。緑豊かな中に個性的な館が点々と現れては去り、現れては去り。教会あり、シュロスあり、カラフルな街並みありで退屈しません。小高い山の中腹にどっしりとした佇まいを見せるのはリングナー城。塔の形がユニークなシュロスはエクブルグ城。

 《次号へ続く/2008.2.26 本田眞哉・記》


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