法 話

(36)「ウイルスの警鐘           

  このところ、テレビも新聞も鳥インフルエンザのニュースで持ち切りです。結局、船井農場では20万羽の鶏と卵3,000トンを“埋葬”することになったとのこと。10トン・トラックで300台分とか。大変なことになりました。京都府における鳥インフルエンザの感染は、山口県、大分県に続いて日本では3番目ということになりますが、事態は最悪。

 食肉業者への影響も深刻であります。日本での発症の前にはベトナムとタイで鳥インフルエンザが発生し、鶏肉の輸入をストップしたばかり。輸入相手国を一部ブラジルに切り替えたものの、捌き方式が違うため日本国内での人件費がかさみ、コストが上がってしまうと嘆く業者。

 さらに遡れば、昨冬アメリカでBSE(狂牛病)が見つかりパニック。食材の牛肉を99%アメリカからの輸入に頼っている牛丼チェーン店はピンチに立たされました。輸入肉が99%ということもこのたび初めて知りましたが、鶏肉の輸入量の多さにもビックリ。

 いや、こうした事案でも起こらない限り、業界の裏側は私たちには分かりません。野菜や魚介類を含めて日本の食料は80%以上が外国からの輸入品だといった噂を聞きますが、今回なるほど、と現実味を実感しました。こうした状態を知るにつけ、果たして日本の「食」はこれでよいのか、と改めて疑問を抱かざるを得ません。

 ところで、鳥インフルエンザ、BSE以外にもここ10年ほどの間に、えたいの知れない病気が人間を襲ってきています。アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱。同じくアフリカが源で、世界中に静かに広がりつつあるエイズ。カイワレの風評被害でいまだに禍根を残すO157や、気味悪く淡水魚を襲う鯉ヘルペスも然り。アジアで蔓延し、航空業界にも深刻な打撃を与えた記憶も新しいSARS(新型肺炎)もウイルスの仕業。

 抗生物質の発見やワクチンの開発によって、天然痘は地球上から消え、ポリオや狂犬病も制圧されました。これひとえに医学研究の成果、科学技術の進歩のお陰でしょう。ところが、その裏をかくようなかたちで次から次へと新種のウイルスや病原菌が人類をおびやかし始めました。

 では、なぜこのような異常な事態に立ち至ったのでしょうか。このことについてはいろいろな見方、学説があるようです。ウイルスの突然変異もその一つ。代表的なものとしてインフルエンザのウイルスがこの類だそうです。突然変異というウイルス自体の要素もさることながら、人間の行為がこうした状況を作り出しているという見方もあります。

 交通手段の飛躍的発達、就中航空路線の広範な普及により、グローバルな人的・物的交流が盛んになった現代社会においては、ウイルスもそれにつれて世界中を駆けめぐることになりました。一地域で静かに暮らしていたウイルスが、異境の地へ赴いて異ウイルスとぶつかりあい、遺伝子を交換して突然変異を起こして新たな病気を発生させる、という物語もまんざらでもなさそうです。

 また、都市化や地球温暖化がウイルスの拡散を手助けしているとの指摘もあるようです。が、いずれにしても人類の科学技術の進歩による利便性の追求、そのために自然を人為的に改造したり破壊したりしてきたことに対する反動ではないでしょうか。ウイルスがいろいろなルートで人類に逆襲を仕掛けているのではなかろうかと思われてなりません。病気を含めた大自然に対峙する人類の傲慢な態度に対して、ウイルスが警鐘を鳴らし反省を求めているのかも知れません。合掌

200431住職 本田眞哉・記》
       

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