法 話

(43)「そらごと たわごと」

煩悩具足の凡夫 火宅無常の世界は 

よろずのこと みなもって

そらごとたわごと まことあることなきに

ただ念仏のみぞまことにておわします

                         『歎異抄』より

先日ある金融機関から電話が入りました。用件は「宗教法人了願寺 代表者」名義の定期貯金に関すること。「平成18年5月8日に満期となる100万円の定期貯金について、宗教法人の資格を照明出来る証拠書類を提出してください」ということでした。

宗教法人の資格を照明できる証拠書類といえば、「登記簿謄本」以外にはありません。それがなぜ今必要なのかを問い質したところ、税務署の調査が入って必要なのだという。ご存じのように、宗教法人は預貯金受取利息について非課税扱いとなっております。税務署から、その根拠である「了願寺は宗教法人である」ことを照明できる証拠書類の提示を求められたから、とのこと。

突然の話でこちらも混乱していて要領を得ませんでしたが、落ち着いて考えてみると、現在当該金融機関には定期預金はないはず。そこで責任ある回答を求めるため、支店長に電話を代わってもらいました。証拠書類の必要性については窓口の女性職員とほぼ同趣旨で、私もそのことについては理解しました。

ところが、当山名義の定期貯金の存在の有無について問い質したところ、調査にしばらく時間を要したのち、昨年12月18に解約になっているとの返答。先ほど女子職員が「18年5月8日が満期」といったのは、何を根拠にしたのでしょう。「エッ?」と驚くほかありませんでした。宗教法人資格証明の書類云々よりこちらの方が問題だ。ことは重大です。解約した定期貯金が原簿では生きていたことになります。となると、逆に現存する定期貯金が解約されたことになったりして…。

何とずさんな事務処理でしょう。ことは重大ですが、本題とは焦点がずれますのでここではパス。解約した定期貯金になぜ追加して書類を出さなければならないのか、いろいろ問い詰めましたが納得できる答えは出てきません。解約して現存しない定期貯金でも、当時非課税扱いした処理を正当化するために是非書類を出してほしい、の一点張り。

もちろん、法令に基づく税務署の見解は間違いありません、おっしゃるとおり。証拠書類が添付されていなければ非課税扱いになりません、課税扱いにしてくださいよ、ということでしょう。納得できないのは、その尻ぬぐいをなぜクライアントに求めるのかということです。法務局へ行って、そちらで登記簿謄本を取ってきてください、といったらそれはできないことになっているとのこと。

支店長に、今1,000万円を定期貯金にすると利息はいくら付くかと尋ねたところ、年利0.03%だから3,000円との答え。税金はその20%で600円。100万円の場合、単純計算すると1年間に300円の利息がつく勘定。そして税金は60円。

一方、法務局へ出かけていって登記簿謄本を交付してもらうと、確か費用は1,000円。最寄りの法務局は半田市にあります。自坊から片道15qほど。自家用車で往復するとガソリン代が600円ほどかかります。60円の免税額と1,600円の経費をビジネスライクに比較すれば、アンバランスは自明のこと。

となれば、実態は宗教法人でも、扱いを任意団体として税金を払った方が賢明。ところが、この任意団体も預貯金の出し入れ、特に引き出しでトラブル続出。先日、緒川仏教会の理事役を引き継ぐことになり、留保金を現金で受け継ぐことになりました。大正時代から続いている緒川仏教会の歴史の中できわめて異例のこと。

なぜそうなったのかといぶかる会員に、前理事の説明は以下のとおり。今までどおり、通帳と印鑑で預金の引き出しを窓口に申し出たが断られた。その理由は、引き出しに来た人間が、緒川仏教会の理事あるいは関係者であるとの証拠がないからということだった。法衣を着て袈裟を掛け、届け出印鑑と通帳を出しても証明にはならない、ということでお金は引き出せなかったとのこと。そんなバカな!とおっしゃるムキもおありかと思いますが、これは事実。

となると、もうなすすべがない。思案のあげく彼が思いついたのは仏教会行事の案内状。理事名が印刷され、公印の押された地元公職者への行事案内状。この案内状を提示し、さらに理事の個人名を証明する運転免許証を見せて、ようやく預金を引き出すことができたそうです。こんな煩雑なことでは金融機関を利用したくない、と思うのは私ひとりではありますまい。日本の金融政策はいったいどうなっちゃったのでしょう。

盗難にあった通帳と電子偽造印鑑で預金を引き出された顧客が、銀行に返還を求めて提訴しているケースもあります。そこから発生する損害賠償に対する水際作戦のために、かくも煩雑でかたくなな業務命令が出されているのでしょうか。はたまた、国際的なマネー・ロンダリングを防ぐためでしょうか。いずれにしても利用者にとっては不愉快な話。何か企業防衛のために、弱者に煩雑な負担が押しつけられているような気がしてなりません。

2004.10.1住職 本田眞哉・記》
       

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